女の節目~人生の選択 (15) vol.15「初めての、会社員」【24歳】
普段はほとんどが単独行動で、金魚の糞がついてくるのはよい暇つぶしになるようだった。
「次の約束もこの近所で、しかも夕方からだから、ちょっとお茶でもして時間潰そうよ。え? 帰社なんかしなくていいでしょー、やだなぁ、まさか君がついて回ってる他の先輩って、そんなに真面目に働いてるの? ……マジで? そりゃまずいな。じゃあ他の部員には、俺がこうしてサボってることは内緒ね。ケーキもおごってあげよう。総務部に出す研修報告には『移動時間を利用して大変ためになるご指導を賜った』って書いといてね!」
どの先輩社員もみんな同じように言うのが面白く、ほとんどすべての人と内緒の約束をして喫茶店での長い長い「座学研修」に付き合い、おしなべて口止め料にあたる昼下がりのケーキセットや何かをごちそうになった。実際こうした時間を共に過ごすうちに業界の実情についてよく学び、異動や転職を経た今もなお非常に役立つお話も多々伺ったので、そこだけはハッキリ書き記しておく。マジで。
平日日中、外回りの営業マンが立ち寄るような喫茶店では、いろいろなサラリーマンを見かけた。天井へ向けた顔におしぼりを乗せたまま爆睡している背広の男、社外秘と思しき紙資料をテーブルいっぱいに並べてあれこれ印をつけているのが丸見えの背広の男、灰皿に火のついた煙草をなげうったまま携帯電話を両手で掲げて虚空に向かってペコペコ平身低頭する背広の男、同じく電話を受けつつ小さな手帳にびっしり予定を書き入れつつ、社名入り封筒を胸に抱えたまま、ついでに脂取り紙で化粧直しも済ませている背広の女。