女の節目~人生の選択 (17) vol.17「初めての、一人旅」【31歳】
両手で一度に運べるだけのカバンを二つ持ち、ラブホテルを改装したような安宿に連泊し、日中は町をうろうろ歩き回り、昼食と夕食は必要最低限にして朝食と観劇にだけうんとお金を使い、下着は手洗いしてワンピースはランドリーに出し、靴を履きつぶして量販店でまったく違うかたちの靴を買い求め、降りる駅を決めずに長距離列車に乗って郊外へ出かけ、たまたま来ていた周遊バスに運ばれて時間を忘れては慌ててタクシーで目的地へ引き返し、気に入った場所があれば腰を下ろして、日が暮れるまで日記を書いていた。
傍目には貧相な旅だが、私には贅沢な旅だった。「この瞬間のために生きてる!」といった類の派手な喜びはなかったが、「地球のどこに生きても、このくらいの暮らしが保てるようでありたい」と思った。小遣い帳をつけるのは三日で放り出したが、途中で資金が尽きることもなかった。できないこと、諦めたこともあるが、やってやれなくもなさそうなことは全部やり、ごくごく個人的な満足を得た。ニューヨーカーの知人はたくさんいるのに、結局、誰とも会わなかった。会えなくて寂しいとも思わなかった。
何よりの収穫は、「あー、日本に帰りたくないなぁ」と思わない初めての旅だった、という点だ。