なでしこジャパンが逆境のなかで輝かせた、ひたむきな「折れない心」の源泉
移籍できたとしても、海外でも年俸は300万円程度。通訳もつかない現実に直面する。
そうした状況を変えるために――。JFAの野田朱美・女子強化担当(現女子委員長)は、代表のキャプテンを務めた自身の経験から弾き出された私案を、約1年間をかけて制度化させた。
海外組に対して1日1万円、1シーズンで約250万円の滞在費を支給するこの制度は、彼女たちを取り巻く状況を劇的に改善した。大儀見や安藤たちは滞在費を語学学校代に充て、コミュニケーション力を向上させて飛躍につなげた。
今大会の代表23人で、現職を含めた海外クラブ経験者は13人。ほぼ全員が「これがなければ海外挑戦は無理だった」と感謝する制度がなでしこの底上げに寄与したことは間違いないが、提案された当初は女子サッカーが置かれてきたステータスを象徴するような逆風がJFA内で吹き荒れた。
「お金を出せば誰でも海外に行きたがる。国内リーグが空洞化する。非常識だ」と。
○決勝戦終了と同時に始まった新たな戦い
世界一獲得後にDF岩清水梓らがプロ契約を結んだ国内組だが、残念ながら後に続く選手がなかなか増えていない。たとえば大会MVP候補にノミネートされたDF有吉佐織は、普段はサッカースクールの受付を勤めている。