松丸亮吾が“謎解き”に情熱を注ぐ理由――落ちこぼれだった幼少体験と子供たちへの思い
●テレビ出演で感じた東大ブランドの無力
5月9日が「謎解きの日」として、日本記念日協会に認定された。申請したのは、最近の“謎解きブーム”をけん引する松丸亮吾が代表取締役を務める謎解きクリエイター集団・RIDDLER(リドラ)で、松丸は「謎解きを文化として残していきたいと思っています」と鼻息が荒い。
彼がここまで“謎解き”の活動に情熱を注ぐのはなぜか。その背景には、落ちこぼれだったという自身の幼少期の体験と、今の子供たちに対する思いがあった――。
○■ネット普及・学習トレンド・コロナ禍背景にブーム化
昨今の謎解きブームが起こった要因を聞くと、「1つは、インターネットやスマホの普及によって、全国どこからでもスターになれる可能性が出てきたこと。動画を上げて、視聴100万人超えみたいなことがあるじゃないですか。それによって、自分のオリジナリティやアイデアが試される時代になってきたというのをすごく感じます。そんな中で、今まで行われていた知識を問うクイズよりも、ひらめきとか発想を試されるほうに、需要が高まっているんじゃないかと」という松丸。
さらに、「小学校の学習指導要領も、今まで学んできたことから応用して答えを導き出すという形に変わって、中学受験でも謎解きっぽい算数や理科の問題が増えているんですよね。そういった点で“謎解き的な思考”というのが、今トレンドになっているのかなと感じています」と見解を語る。
そこに、コロナ禍における“おうち時間”も後押しに。「もともと予定していた謎解きのライブイベントなどがコロナで全滅してしまったんですけど、その一方で急激に増えたのがテレビの出演でした。家族で一緒に見れる番組って非常に少ないんですけど、謎解きは親子関係なくその場のひらめきで楽しめるということで、コミュニケーションツールとしても良かった。だからこそ、コロナ禍で一気に謎解きが注目されて、ブームが爆発したのかなと思います」と分析した。
○■『今夜はナゾトレ』きっかけに小学校でバズる
テレビ出演のきっかけは、2016年にスタートしたフジテレビのクイズ番組『今夜はナゾトレ』(毎週火曜19:00~)。謎解き問題の「東大ナゾトレ」コーナーを担当している。
「当時、AnotherVisionっていう東京大学の謎解き制作集団のリーダーをやっていたんですが、学業と両立するためにあまり対外的な活動はやってなかったんですね。そんな中で、2年から3年に上がるときに書類申請をミスりまして(笑)、『君、もう1回2年生だよ』って言われて。そこで1年ただ学費を払うだけなのも変な話なので1年休学して、やりたいことを全部やろうということで、謎解きに全ベットしたんです。そのときは、謎解きが仕事になると思ってなかったし、ましてやブームになるとは想像もしていなかったんですが、お願いされた対外的な依頼は全部やろうと思ってイベントをいっぱい仕掛けていくうちに、『AnotherVisionが巷でウワサになってる』と評判になって、フジテレビの木月さん(※『今夜はナゾトレ』企画・演出・プロデューサー 木月洋介氏)が白羽の矢を立ててくれたんです。それに応える形でコーナーを作ったら子どもたちにすごく人気が出て、気づいたら本がベストセラーになって…という感じです」
問題本はシリーズ累計150万部を突破。今や松丸と京大出身・宇治原史規とのバチバチぶりも名物になっているが、番組に出演したことで、テレビの影響力の大きさを感じたという。
「今、20代や30代はテレビ離れと言われたりしますが、子供たちにとっての影響力は絶大で、放送の次の日に小学校の黒板とかで謎解きの問題を出す子が出てきて、他の子たちがそれを解いて楽しむという現象がどんどん連鎖していって、テレビをきっかけに学校内での“バズり”が始まっていったんです。小学生から『謎解きの作り方の本を出してほしいです』とお便りを頂くようになって、かなり変化したなと思いましたね」
そうするうちに、出題する子や、解くのが速い子がクラスのヒーローになっていくそうだが、それに該当するのは決して学力に比例するわけではないようだ。
「コロナで修学旅行に行けなかった6年生の子たちに思い出を作ってあげるために、RIDDLERの慈善事業の一環としてボランティアで小学校に行って、謎解きを仕掛けるというイベントを開催したんです。15校くらい行ったんですが、中にはトップにいた子が全然勉強好きじゃないという事例もあって、勉強では割り切れない尺度や人の発想力というのがあるんだなと確信しました。また、テレビの世界に入ってからは、自分の持ってる東大という肩書きが本当に何の役にも立たなくて、トークのスキルとか場を盛り上げる力、機転が利くかどうかというのが、勉強とは全く関係ない“頭の良さ”なんだと思ったんです。そういうことからも、謎解きが得意ということが、1つ社会的なスキルとして認められるようになると、面白いんじゃないかなと思います」
●謎解きが「異常なほど強い」佐藤健
テレビ出演するようになって、様々な芸能人の謎解き力を見てきたが、特にすごさを感じるのは、俳優の佐藤健。「健さんは異常なほど強いです(笑)。謎解きが好きすぎて競技としてやってる人たちが参加する大会にも参加して普通にクリアしちゃうくらいですから」と評する。
今年放送された謎解き特番では佐藤が次々に即答したことから、ヤラセ疑惑のゴシップ記事も出たが、「健さんを知ってる人からすると、何を言ってるんだという話です。健さんの実力からすると、逆に遅いくらいだと思いながら見てましたから(笑)」と、その実力を明かした。
○■「自分は何のためにいるんだろう」から「自分、天才じゃね?」に
謎解きは、「勉強が苦手な子を勉強好きにするきっかけとして、とても有効な手段」と強調する松丸。「国語・算数・理科・社会、どれをとっても最初に知識のインプットがいりますよね。勉強って必ず何かハードルが設定されていて、そのハードルを越えられた人が頭を使う楽しさを分かるという、ちょっと振り落としの構造があったりするのがもったいないと思うんです。でも、謎解きは知識ではなくひらめきなので、勉強が苦手だなと自信をなくしていた子が自分の頭で考えて、先生に教わるわけでもなく、答えにたどり着いた瞬間、自信を取り戻したのをたくさん見てきました。そういった意味でも、謎解きは“頭を使うことは怖いことじゃない、難しいことじゃない”というのを教える力を持っていると思うんです」と訴える。
こう語るように、謎解きの活動の大きな原動力として子供たちへの思いがあふれて伝わってくるが、その背景には落ちこぼれだった自身の経験があった。
「僕は4人兄弟で一番上がDaiGo(メンタリスト)なんですけど、ケンカすると当然知識もないからいつも負けて、悔しくて部屋で泣いてるということがずっとありました。クイズ番組を見てても知識を問うのでお兄ちゃんたちのほうが答えるんですけど、小学3年生の頃にやってた『IQサプリ』(フジテレビ)という番組の問題は、家族で僕が一番先に答えられたんです。
それまでは、お兄ちゃんに勝てない自分はダメな子だと思って、当時は勉強も得意じゃないし、自分は何のためにいるんだろうと考えちゃうときもあったんですけど、謎解きで勝った瞬間に、初めて『自分、天才じゃね?』って思ったんですよ。実際にそうであるかは置いといて、子供自身がそうやって自己肯定感を持つことがすごく大事なんです。僕は自分の得意なことが見つかったからこれを極めようと思って、ずっと謎解きをやって結果、一番花開いたものなので、今の子供たちに対してもそういうきっかけになるようなことを、1つでも多く提供してあげたいという思いがあります」
松丸自身、それをきっかけに勉強の面白さに目覚めたそう。「勉強は苦手だったけど、頭を使うことって案外楽しいことなんだなという意識にまず変わったんです。そこから勉強のハードルがグッと下がって、『ちょっと公式を覚えてみよう』とか、“ちょっとやってみよう”が積み重なるとすごい力になるんですね。勉強がどんどん好きになって、気づいたら中学受験に合格してたんです」と実体験を語り、「だから『うちの子は謎解きが好きなんですけど、勉強が苦手で…』という親御さんがいたら、すごくいい第一歩を進んでるから、うまく勉強にアシストしてあげてほしいなと思いますね」と呼びかけた。
●謎解きクリエイターを「当然の職業に」
今年1月に放送された日本テレビ系『クイズ!あなたは小学5年生より賢いの?』(毎週金曜19:00~)で全問正解した松丸は、賞金の1千万円で、「みんながいつでも謎解きを楽しめるアプリを作りたい」と話していたが、それも子供たちが楽しめるものを作りたいという思いで開発に着手。しかし、「試算したら5~6千万円くらいになっちゃうことが分かって(苦笑)。
だからどうにかして1千万で収めるか、出資を募るのか、プロジェクトとして今、岐路に立たされてるんです」と現状を明かす。
それでも、「子供たちが一番楽しめる形にしたいから、会社としては利益をアプリの実装に全ベットする可能性もあります」と諦めきれない思いがある。
このように、経営者とクリエイターの両立は「大変ですね。時間が全然足りないので、1日40時間くらい欲しいです。番組収録の休憩中の楽屋で、謎解き問題の確認とか修正とかやったりするんですけど、的確に伝えられているのかと不安になることもあります」と吐露しながらも、「社員の子たちがすごく支えてくれて、僕のいないときにいろんな問題のアイデアも出してくれるので、かなり助けられてますね」と感謝した。
「RIDDLER」という会社が事業を順調に回していくことは、“謎解きクリエイター”が職業として確立されることにもつながる。「例えば、映画が当たり前になったことで映画監督という職業が認められたわけなので、謎解きが当たり前になれば謎解きクリエイターも当然の職業になって、子供たちも夢を持ちやすくなるし、親としても安心できると思うんです。8月に、有岡(大貴)くんとコラボして謎解き演劇をやるんですけど、そういう形で有名な人が謎解きのイベントをやっているというのをどんどん当たり前にしていきたいですね。
謎解きってどこでもやってるし、何とでもコラボできるんだとなることで、仕事として成立してるなという意識が働けばいいと思います」
○■「謎解き」を学校の教科の1つに
改めて、今後の活動の展望を聞くと、「今、謎解きが持っているイメージが、単純に“楽しいもの”と捉えられたり、一過性のブームと思われたりしてしまっているところがあるんですけど、先ほども言ったように教育的な価値がすごく高いし、自分が参加することによる体験的価値も非常に高いんです。だからこそ、もっともっと面白いアイデアでいろんな人が参加することで盛り上がっていくのかなと思うので、クリエイターも解く人も、どんどん増やしたいです」と意欲。
さらに、“謎解き”を学校の教科の1つにするという野望も。「藤村女子中学という学校で、謎解きが科目として2021年の入試問題に出たんです。今後は、そうした学校が増えていくと思うのですが、謎解き的な問題を作る専門家が教育の場にいないので、僕らのエッセンスを加えれば、もっともっと良い問題ができると思っています。自分で考える『自考』という科目として、謎解きが認められてくると、すごく面白いなと思いますね」と、目を輝かせていた。
●松丸亮吾1995年生まれ、千葉県出身。麻布中学・高校を卒業後、東京大学工学部に入学。同大学の謎解き制作集団・AnotherVisionの2代目代表を務め、『今夜はナゾトレ』(フジテレビ)で「東大ナゾトレ」のコーナーを担当し、番組本はシリーズ累計150万部を突破した。謎解きクリエイター集団・RIDDLER(リドラ)株式会社の代表取締役を務め、『ゼロイチ』(日本テレビ)、『あさイチ』(NHK)、『おはスタ』(テレビ東京)といったテレビ番組や、謎解きイベント、YouTubeチャンネルなどで活動する。