2015年10月19日 12:00
フォントから考える (4) 世界の“普通”をつくったHelvetica (2)
というような、Helveticaそれ自身に理由を求めては面倒なことになりそうです。
そこで、ここでは外部的な理由を考えることにしましょう。「生まれた時代」、そして「大企業による採用」、この2点が単純ではあるものの、大きな要因ではないでしょうか。
デザイン史から見て、20世紀の中頃は「国際タイポグラフィ様式(スイススタイル)」と呼ばれるグラフィックデザインのスタイルが世界的に注目されていました。スイススタイルでは「文字」の扱いが重要視されており、主役とされていたため、強く合理主義を貫くスイススタイルに影響を受けたデザイナーたちは、清潔で、力強く、加えて「文章の意味」を邪魔しない、個性の薄い書体を求めていました。
しかし、そういった主役としての高品質な「書体」には高い需要があったものの、Helvetica以前には選択肢がほとんどありませんでした。Helvetica(当時はNeue Haas Grotesk)はそのような状況の中で登場し、まさに時代の要求に完璧に応えた書体として人気を博しました。また、スイススタイルは当時、世界のデザインに大きな影響を与える中で、企業ブランディングの領域に広く受け入れられました。