【コブスくんのドキドキ企業訪問】エンターテインメントの現場! 映像翻訳の裏側に潜入
かく言うわたしもその恩恵を受けているひとり。最近はもっぱら「GOSSIP GIRL」にハマり中。ところで、映画やドラマの日本語吹替版って、どう制作されているのでしょうか。翻訳スクール「フェロー・アカデミー」の映像翻訳の講座に潜入して、プロの声優さんによるアフレコ授業を体験してきました!
※一般社団法人 日本映画製作者連盟「2011年(平成23年)全国映画概況」(2012.01)より。
■台本を元に、セリフに命が吹き込まれる。
教室では、事前に受講生が作成してきた日本語台本が全員に配られ、アフレコ演習が始まりました。
今回は、声優の斉藤くみさんと岩崎学さんが、映像に合わせて、ライブでセリフを読み上げていきます。
課題は『そりゃないぜ!?フレイジャー』というアメリカのコメディドラマ。コメディだと気が利いたセリフやダジャレを考えなくてはいけないので、大変だそうです。
講師は本作品の翻訳も担当されている峯間貴子先生。アカデミー作品賞映画『恋に落ちたシェイクスピア』の翻訳もされた現役の翻訳家です。
台本を手に声優さんがしゃべり始めたとたん、空気が一変。
さすがプロ。ものすごい臨場感です。
一通り終わると、声優さんから、「ここは読みにくい」、「ここの尺はちょっと長い」と反省会。
声優さんからのコメントで多かったのが「尺の長さ」に対する指摘。
尺が長すぎてもダメ、短すぎてもダメ。映像とうまくリンクするセリフを考えなくてはいけません。実際の収録現場で尺が合わない場合、翻訳家がその場でセリフを調整する、という作業も発生するとのこと。
また、しゃべりづらい単語に対する指摘もありました。
例えば「上司との顔合わせ」は発音しづらいので、「上司とのミーティング」にしたほうがいい、など、しゃべる吹替ならではの意見が飛び交っていました。
■吹替翻訳の肝は、セリフの「尺」と「言葉選び」。
ひとくちに翻訳といっても、字幕と吹替ではルールが違うもの。字幕の場合は、セリフ1秒に対して字幕は4文字。人物が3秒間しゃべっていれば、字幕はだいたい12文字にまとめます。
一方、吹替の場合は1秒に対する文字数は決まっておらず、その代わりに原音の長さにぴったり合ったセリフを考えなくてはいけません。
また「日本語版台本」は、声優さんにとって、もっとも大切なもの。翻訳者は声優さんが演技しやすいように、チャイムの音や足音、効果音など、セリフの合間に入る音も、すべて聞き取って、台本に書き込まなくてはいけません。
●セリフ中につける記号例
(息)……息継ぎ以外で息が音として出ていることを示す。
(笑)……笑い声を示す。
その他、(咳)(咳払い)(舌打ち)(ため息)(キス)などがあります。
●効果音を表す記号
(ガヤ)……人ごみのシーンなど、大勢のざわめきを示す。
(M)……音楽が流れていることを示す。
その他、(拍手)(電話)(ノック)などがあります。
■セリフひとつが登場人物のキャラクターを左右する。
あと、翻訳をする上で大切なのが、キャラクターに合った言葉を選ぶこと。
几帳面、皮肉屋、せっかち……その人物の性格に合ったセリフや“間”を考えなくてはいけません。
確かにセリフひとつで、登場人物のキャラクターイメージは変わります。
例えば『刑事コロンボ』。彼の口癖である「My wife」は、直訳すると「ぼくの妻が……」ですが、そこを「うちのかみさんがね……」という言葉を選んだことでコロンボ刑事の飄々とした性格がとてもよく表されています。
■市場が拡大し、需要も増え続けている「映像翻訳」。
講座終了後、講師の峯間先生にお話をお伺いしました。
――吹替翻訳原稿をつくるのに、どれくらいの時間がかかりますか?
「1週間くらいでしょうか。30分ドラマでも60分ドラマでも納期はだいたい1週間くらいです。
シリーズ作品の場合、キャラクターを掴むまでが一番時間がかかりますね」
――吹替翻訳原稿はどうやって作るのですか?
「まずは映像を見て、スクリプトを読んで、どんなシーンなのか、何を伝えるべきなのかを理解してから言葉を考えます。セリフは視聴者が耳で聞いて意味が取りやすいように、聞き取りづらい言葉や同音異義語は避けて、なるべくわかりやすくしますね。一行セリフを作ったら声に出してみて、長さを調整します」
――翻訳セリフをつくる上でポイントになることは?
「いきいきしたしゃべり言葉にすることですね。ビジネス文書や小説とは違って、完全な話し言葉にしなくてはいけません。英語自体はそれほど難しくなくても、ブレスや長さ、キャラクターを考慮してセリフを考えるのは難しい。でも、それがやりがいでもあります」
――英語力に加えて、センスも必要っていうことですね。そのセンスを磨くために、個人的にできることなどはありますか?
「自分が好きなドラマや、好きな翻訳者のドラマを見ることは、やはり勉強になります。気に入ったセリフをノートにメモしておいて、考える時の参考にしてみるとか。
一人で考え続けると行き詰まってしまいますが、新しい風を頭に吹き込むことで、いい表現が浮かんだりします」
――コメディ作品で笑わせるセリフを考えるにはどうしたら?
「もうひたすら考えるしかないですね(笑)。原文にある笑いのツボを理解し、それを日本人でも笑えるような表現に置き換えていく。ひとりよがりにならないように、誰かに聞いてもらっておもしろいかどうか判断してもらうこともありますね。家族でもいいし、翻訳学校のクラスメイトでも」
――映像翻訳家の方は、それぞれ専門をもっているのですか?
「得意分野はあると思いますが、専門は特にないですね。そこは、ミステリーや法律など、専門がはっきりした出版翻訳や実務翻訳と違いますね」
――海外の映像作品を観る機会が増えていますが、映像翻訳家の需要は増えてきているのでしょうか?
「多チャンネル化やネット配信など、媒体自体が増えているので、吹替も字幕も、翻訳家の需要は増えていると思います。ただし、実力重視の世界なのでそんなに甘くはありませんが」
――ありがとうございました。
「夢をあきらめずに辛抱強く取り組むことが大切。努力が実を結ぶ、そんな経験ができる職業」と語る峯間先生。翻訳家の需要が増えている今、モノ作りやエンターテインメントの世界で活躍したい方は、可能性に挑戦してみてはいかがでしょうか。
(マイナビニュース編集部)