恋をすると世界が輝いて見えるのには、きっとふたつの理由がある。好きな人に新たな世界の見方を教えてもらうこと。恋が心を輝かせ、その光が世界に映ること。
「じつはもう目星はついてるんです」と恋人は私を駅に接続したファッションビルの上層階の奥の、まだふたりで入ったことのない店に連れて行ってくれた。「冬を生きる服」という言葉から私はモコモコの防寒服をイメージしていたのだけれど、彼が指をさした先にあったのは、真っ赤なワンピースだった。
テレビのなかで女優が闊歩するレッドカーペットの色のニットワンピース。胸元に小粒のキラキラがついている。ウエストから下はプリーツになっていて、少し広がりのあるAライン。
かわいい。でもほとんどダークカラーの服しか持っていなかった当時の私は戸惑った。「こんなの、似合うかな」と小声で言うと、彼は真っ直ぐにこちらを見て「似合うと思いますよ、目頭の粘膜の色と同じなので」と言った。
目頭の粘膜の色って、ほとんどみんな赤いのではないだろうか? と疑問に思ったが、少し前にベッドの上で「あなたは肌も白目も真っ白だから、粘膜の赤が際立っている」と彼が言っていたのを思い出した。私が恥ずかしくなっているうちに、彼は店員に包装をお願いしてくれていた。