わたしは次から次へとワンピースドレスのコーナーでハンガーをかき分けた。ノー、ノー、ノー。これだ! と思うようなワンピースに出会うのは相当難しいことだと思い知った。
そもそもパッとする色のものがなかなか売っていない。たいていがくすみカラーか、すこしきつめの紫や紅(赤ではなく、紅というかんじの色)だ。そして、謎のレースや謎の石がついているものが多い。にせものの宝石やにせものの真珠が縫い込まれているワンピースを、なぜだかわたしはことごとく嫌いだった。ノー、ノー、ノー。
かき分けるワンピースに、どれも「こういうの着る人いっぱいいるんだろうな」と思ってしまう。色がだめ、生地が安っぽい、レースが安っぽい、これは少しいいかも……8万円! だめだ。背中が開きすぎ、裾が長すぎ、柄が派手すぎる、紺色だし普通すぎるけどこれならこれで……サイズがない。
これもちがう、これもちがう、これもちがう! どうして「普通の」ワンピースがないの! 15店舗ほどハンガーの中を泳いだところでへとへとになって地下へ降りて果物屋さんで生のレモンジュースを吸いながら、ベンチに座って考えた。
そもそもわたしのワンピース観が絵本に由来しすぎているのではないか。