赤ちゃんが泣いたら個室に移動できる子連れOKな映画館が誕生
全座席にはイヤホン完備、日本映画にも日本語字幕を
その最大の理由は、先ほど平塚さんの話に出たユニバーサルシアターであるということ。同館は、子ども連れだけに開かれた映画館ではありません。ユニバーサルシアターとは、目の不自由な人も、耳の不自由な人も、車いすの人も、発達障がいのお子さんや精神障がいの人も、だれもがいつでも安心して、一緒に映画を楽しむことのできる映画館。そう、すべての人に開かれているのです。
平塚さんはこう話します。「私がこの映画館を作るに至った出発点は1999年のこと。チャップリンの『街の灯』を、目の見えない人たちに届けるというイベントに関わることになったのがきっかけでした。
そこで映画を観ることを諦めていた視覚障がい者の方たちと出会ったんですけど、調べてみると欧米の映画館では、当たり前のように視聴覚障がい者へのサポートがあって、封切りと同時にその新作映画を見ることができる。
ところが、そういうサービスが日本には一切ない。だったら“自分で作ろう”と、City Lightsというボランティア団体を立ち上げました。その中で、視覚障がい者の方にむけた上映会や映画祭など行ったところ、やっぱり常設のハコがあると便利だから、どうしてもほしい。
そこで当初、目標に掲げたのがバリアフリー映画館を作ること。ただ、バリアフリーという言葉がどうもしっくりこない。もっともっと広い意味にしたい。そのとき、障がいがあってもなくても関係なく安心して参加できるユニバーサルキャンプというのを八丈島でやっている、ユニバーサルイベント協会の方と出会って、これだと思ったんです」
すべての人に開かれたユニバーサルシアターは、さまざまな配慮と創意工夫がなされています。まず、全座席にはイヤホンが搭載。
常時、場面解説の音声ガイドを聴くことができるシステムになっているので、視覚に障がい害のある方も、一緒に映画を楽しむことができます。また、イヤホンで本編の音を増幅できることで難聴の方にも対応しています。
次に、日本映画を上映するときも、日本語字幕付きでの上映。聴覚に障がいのある方も、一緒に映画を楽しむことができます。さらに劇場は入口からトイレ、客席まで完全バリアフリー。車いすのまま映画を観ることができます。そして、人の大勢いるところが苦手な子どもや、赤ちゃんをお連れの方には鑑賞室というように、みんなが安心して映画を楽しめる映画館になっています。ほかにも駅からの誘導や手話サポートといった予約サービスがあったりと、ほんとうにどんな人も迎えてくれる体制が整えられています。
おそらく日本でもっとも間口の開かれた映画館といっていいかもしれません。
人工芝がひかれた床、360度のフォレスト・サウンド、振動が伝わるスピーカーも
その一方で、映画を見せる劇場としてのこだわりも。シアター内は“森の中”をイメージして、木や緑を感じられるものをところどころに設置。床は人工芝が敷かれ、屋内にいながらなにか野外を思わせるようなリラックスできる空間になっています。子どもだったら地べたに座ってみたくなってしまうかもしれません。
また、音で映画をイメージする視覚障がい者の方のためにもできるだけよい音響環境を作りたいということから、360度音に包まれる“フォレスト・サウンド”を実現。音響監督の岩浪美和さんの監修・コーディネイトのもと音響設計がなされ、劇場の前面、側面、後面、天井までスピーカーを配して、森にいるように優しく音に包まれる音響になっています。さらに映画の音を振動が感じられる、抱っこスピーカーも用意されています。