■近所に貧困の子どもがいたらどこまで関わるべき?
ユウトは、ミチルやヒカルを家に連れてきて、両親に食事を出してほしいと頼みます。両親は怪訝に思いながらも姉妹に食事を食べさせます。
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
ユウトの母・佳子(常盤貴子)は姉妹を心配し、何か行動したほうがよいと考えます。一方、ユウトの父・作郎(吉岡秀隆)は、ごはんを食べさせるくらいはよいとしても、事情がわからないのでとりあえず様子見でいいだろうという姿勢。夫婦の間で意見が割れ、口論になっていました。
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
個人主義で地域社会とのつながりも薄い現代では、作郎のように「首を突っ込みすぎないほうがよい」と考えるのは、むしろ自然なことかもしれません。余計なことをして親に逆恨みをされたくないし、面倒なことに巻き込まれたくないと思えば、
「家庭ごとの事情があるだろうから」と行動しない理由づけをするのも簡単です。
ところがそんな両親に、あるときユウトは「見ているだけで何もしていない」と怒りをぶつけます。もちろん、両親は何もしていなかったわけではありません。両親はミチルやヒカルに何度かごはんを食べさせていたし、心配もしていました。
大人の視点では十分関わっているように見えますが、場当たり的な対応だけで根本解決への行動を起こそうとしないのは、
ユウトから見れば何もしていないのと同じことだったのです。
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
「見えない貧困」は、言葉のとおり見えないから想像しづらいものです。でもだからこそ、身近な人や地域が動かなければ、そのまま
だれにも気づかれず、ときには最悪の事態を招くことも。
最近は貧困に限らず、
「もうすこし周囲の大人が気にかけていれば…」と感じる悲しいニュースも目にします。映画の中にもそうした悲しい結末を想像させるようなシーンがあります。
■「子ども食堂」の存在意義とは?親として大人としてやるべきこと
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
子ども食堂はすばらしい活動ですが、本当に温かい食事を必要としている貧困家庭の子どもや親に来てもらうことが難しいという課題もあります。
開催は月に1~2回の開催というところがほとんどなので、そもそも貧困に苦しむ子どもへの食事支援と考えたとき、十分とはいいづらいかもしれません。とはいえボランティア等による運営なので、運営費や運営スタッフの確保も大変です。
ただ、ここでひとつ忘れたくないのが
「子ども食堂」の存在意義はおなかを満たすだけではないということ。親が忙しく夕食を1人で食べる子どもにとっては、
子ども食堂は楽しい集いの場になりえます。
俵万智さん作詞の映画の主題歌も、誰かと食事を共にする楽しさを歌っています。
俵さんは歌詞に込めた思いを「食べるという命に直結する行為で、大人から子ども、社会が繋がっていく姿が素晴らしいと感じました。なのでそこに焦点を絞りつつ、自分自身の感想・感動、この映画からもらったものを自分なりに言葉でお返しする、そんな気持ちで歌詞を書きました」と語っています。
タカシも、ミチルやヒカルも、家庭環境が複雑で、それが貧困につながっています。いまは親であっても自分の人生を生きやすい時代。仕事やパートナーとのかたちも多様で、いろいろな生き方が尊重されてしかるべきですが、そのしわ寄せがはたして子どもにいっていないか、ということは立ち止まって考えることも必要なのかもしれません。
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
ニュースで子どもの貧困を知っていても、その状況に置かれている子どもたちの気持ちや有り様にまで想像を働かせるのはとても難しいこと。
この映画を観ると、どこか人ごとだった「子ども食堂」や「見えない貧困」についてもうすこし自分事としてとらえられるようになったり、
自分のすぐ身近に困難を抱えた子どもがいる可能性を想像しやすくなったりすると思います。
子どもたちは社会の未来であり、希望。
その子どもたちを守るのは私たち大人の大切な役割であることにあらためて気づくと同時に、何をするべきか考えるきっかけをくれる映画です。
『こどもしょくどう』
©2018「こどもしょくどう」製作委員会
3月23日(土)より岩波ホール2週間先行ロードショー
ほか全国順次ロードショー
小学5年生の高野ユウト(藤本哉汰)は、食堂を営む両親と妹と過ごしていた。育児放棄気味の母と2人で住む幼馴染のタカシを心配し、ユウトの両親は頻繁に夕食を振る舞っていた。ある日、ユウトとタカシは河原で父親と車中生活をしている姉妹に出会う。姉妹の姿を見かねたユウトは、両親に2人にも食事を出してほしいとお願いをする。しかし 数日後、姉妹の父親が失踪し、ミチルたちは行き場をなくしてしまう。
公式サイト:
https://kodomoshokudo.pal-ep.com/
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