連載記事:わたしの糸をたぐりよせて
夫との不穏、そしてすれちがってしまったワケ…ママに縛られない私が歩む先【わたしの糸をたぐりよせて 第12話】
■夫が私を抱きしめた! もう一度、夫婦の糸を染め直す時
「初めまして! 私、安芸と申します。いろいろとご主人に相談に乗っていただいてありがとうございました!!
そして、家族の時間を奪ってしまって申し訳ございません。お詫びに奥様とお子さまの好きそうなケーキを買ってきましたので、どうぞ召し上がってください」
――亮くんが連れてきた後輩は、子犬みたいでかわいらしく女子力高めの男の人だったのだ。長いことしていた勘違いに、身体の力がどっと抜けていたのは亮くんには一生内緒にしておこう。
安芸さんが帰ったあと、私と亮くんはケーキを食べながら、今までのことについてあらためて話をした。
「じつは、5月の連休明けに同僚が大けがをしたんだ。それで同僚の仕事を代わりにやってたんだけど、安芸も大変な思いをしてすっかり参ってしまってね。
それで、ことあるごとに安芸を連れだしてはご飯を一緒にしたりお酒を飲んだりしてたんだ。
安芸には、『妻は元同僚だから理解してくれるよ』なんてちょっと強がっちゃったんだよな。
でも、それが結果として家族と過ごす時間よりも会社で安芸たちと過ごす時間のほうがはるかに長くなっちゃったからな……ごめん! ひとりにさせてしまって」
そう言って亮くんは立ち上がると、座ったままの私をそっと抱き寄せた。
私の目から、みるみる涙があふれだしていつしか声を上げて泣いていた――。きっと、私たち夫婦は、今度こそ一緒に糸を染めていかれるはず…。
ひとしきり泣いたあと、ふたたび亮くんが椅子に座った。
(こんなタイミングで言うのもなんだけど……今、言ってみようかな)
私は、おゆうぎ会の衣装製作をきっかけに人づてに服の注文を受けていること、インスタで反響があること、思い切ってネットショップを開業しようと思うことを打ち明けた。すると、
「いいんじゃないかな? やってみなよ。友里が暇さえあればデザイン画を描いてたのも知ってるしね」
「あれ、見てたんだ」
「うん。
友里はちっとも気が付いてないみたいだけど、けっこう見てたんだよ、陰から。だから俺、頑張ってほしいと思ってる。まあ、製品づくりはともかく、税金のことは大変と思うけどね」
と、ニヤッと笑う。
「税金……そっちのことはまったく考えてなかった……」
「それは勉強していけばいいよ」と、亮くんは恋人時代のように私のおでこを指でつつく。
その日は久しぶりに、亮くんといろいろ通じ合えた夜を過ごした。
翌朝、洗面所には以前亮くんに腕を引っ張られたときに割ってしまったイナガキくんからもらったのと同じ香水の瓶が置かれていた。
「もしかして亮くん、イナガキくんと会っていたの知っていたの…?」