花火大会に行くはずだったのに……夏の予定を残して去った彼氏への思いをビールで飲みこむ【20代最後の夏、何を飲む?】
もう29歳、いい大人だし、「考え直してほしい」と泣きつくほど関係が深まっていなかったし。
でも、だからといってまったく悲しくないわけではない。結婚したり、出産している友人も多い。幸せそうな彼ら、彼女らを見ていると、誰かと暮らすことについてそこまで興味が持てない自分は人として何かが欠けているのだろうかと不安になる。いつかは私だって「ふつう」に家族を持ちたいのだ。
ドン、ドン……と、本当は見に行くはずだった花火の音が小さく聞こえる。ユウカの住むマンションからは見えないが、きっと華やかな空を見て多くのカップルや家族が幸せな時を過ごしているのだろう。
何か飲もうと冷蔵庫を開けると、二人で飲もうと思って買っておいたビールが所在無げにしていた。
リョウタが好きだと言っていた「ザ・プレミアム・モルツ」の夏限定品。いつもの金と深いブルーの缶ではなく、皮肉にも花火があしらわれたデザインになっている。
普段、一人ではそこまでたくさんお酒を飲むユウカではない。でも、今日は2本とも飲んじゃえ。わざと大きく音を立てて缶を開け、ぐいっと飲み込む。「……好きだったって言えば良かった」
フルーティーさを感じる華やかな味わいに、今さら寂しさがこみ上げてきた。