【『最愛』感想 8話】献身と表裏にある孤独・ネタバレあり
ここまでほぼ感情を押し殺して不気味な男を演じてきた及川光博が、感情を爆発させる場面である。
「あの場所(会社)がわたしの全てだ。他には何もないんだ。何も、ないんだよ」
後藤の言葉に気圧されたように、一瞬加瀬が黙り込む。
逃げ去る後藤をなすすべなく見送りながら「わたしの、すべて」という言葉を反芻(はんすう)する加瀬の胸にどんな感情が行き来しているのか。あとをひく印象的な一瞬である。
弁護士という職業自体、本来は白黒つけられない複雑なものに何とか白黒をつけて解決するものだが、真田ホールディングスや真田ウェルネスのような、介護や医療、人の老いや生死に直結した企業の法務が仕事ならば、なおのこと扱うのは善悪の単純ならざるグレーなものばかりなのではないかと思う。
人の病気が治るということは、シンプルに善だ。
今まで治らなかった病気を治すものを作りたいという梨央(吉高由里子)の情熱が、加瀬の人生にとってどれほど眩しく救いであるか。
「世界が良い方に変わっていくのを見たい」と、ぽつりと語った言葉がそれを表している。
梨央にとっても、加瀬は眼前の創薬だけに没頭しがちな自分と社会を繋ぐ堅実な『輪』であり人生の一部なのだろう。