「古代から300種の日本髪を再現する」91歳の現役美容師
そして3代目の登美子さんは、古代朝廷の貴婦人から現代の舞妓まで、長い歴史のなかの300種類の髪形を再現できる。しかも、それぞれの時代の風俗や文化までも記憶しているという徹底ぶりだ。
「髪形の変遷は、美を追求してきた歴史なんです。古墳時代の昔から、女性はずっとオシャレをしてきた。美容も、時代ごとにさまざまな手法、技を生み出してきました。美しくなってほしい--伝統を守るとは、そんな思いをつないでいくことなんでしょうね」
1700年の美を受け継ぐ登美子さんは、伊勢神宮の神事にも関わる。現在は、天皇陛下の長女であり、祭主を務める黒田清子さんの結髪と着付けを担っている。
1928年(昭和3年)、登美子さんは京都市東山区で画家の娘として生まれた。
ミナミ美容室を営む父方の祖母・南ぢうさんと伯母・ちゑさんのもとに引き取られたのは、3歳のときだ。
宮尾登美子の小説『序の舞』は、女流日本画家・上村松園(1875~1949)の生涯を描いたものだが、中にこんな記述がある。《南さんは京都中でいちばん上手と評判だったが、なるほど結って戻ったます子の頭はぴったりと形よく品よくでき上がっていて、申し分なく、それを婚礼衣裳の振袖を着せ、丸帯を締めさせて画室に入ってもらった》
この“南さん”が、ぢうさんである。