「古代から300種の日本髪を再現する」91歳の現役美容師
になった。
登美子さんもまた、髪形の歴史と伝統を学び、文献を読みあさり、雛形や日本画を参考に研鑽を積んでいった。
「髪結いが下に見られんように、ほんまに頑張ってきました」
驚いたことに、登美子さんが仕事で初めて日本髪を結ったのは、60歳のときだという。
「花嫁の髪でした。病気で伏せていた母が、おぶわれて仕事場に来て、『上手に結えてる』とひと言。最初で最後の褒め言葉でした」
翌’89年、ちゑさんは85歳で亡くなった。登美子さんは、母の仕事を引き継いだ。伊勢神宮の祭主である池田厚子さん(昭和天皇の四女)の結髪と着付けを担うようになる。
祭主とは、神への天皇の勅使であり、2月の祈年祭、6月と12月の月次祭、10月の神嘗祭という大きな祭典を主宰する神職である。
「ご祭主様は大変ですよ。式典は真夜中に行い、睡眠時間は3時間ほど。それを3日間、外宮と内宮をまわられるわけですから。私どもは小さな部屋で待ち、潔斎(沐浴)されたご祭主様の装束と髪形をつくります。その日の式典が終わると解くわけですが、寝る時間もやはり3時間ほどです」
’95年、登美子さんもまた「有識美容師」