渡辺美佐子 反戦朗読劇の原点は、原爆で奪われた“初恋の人”
女優が泣き崩れる姿を逃すまいとしているかのように。
「本当は立っていられないほどのショックでした。でも、私は泣きませんでした。絶対、泣くまいと。昔、ちょっと見知っただけの女の子が人前で涙を流すような、そんな安っぽいことじゃない、もっと重たいことなんだ、そう思い、必死にこらえました」
それから5年を経た’85年。渡辺さんは尊敬する演出家・木村さんからこう声をかけられる。
「唯一の被爆国である日本の演劇人として、何か形にしようじゃないか?一緒にやりませんか?」
渡辺さんは間髪入れずに答えた。
「ぜひ参加させてください」
こうして、渡辺さんら平和を願う女優たちの夏の風物詩となる、朗読劇が幕を開けたのだった。
渡辺さんは「出会いや縁って、すごく大切」と強調する。
「龍男くんと私の出会いもそうです。彼との縁が、朗読劇や憲法くんの映画に、私を導いてくれたと、いまではそう思うんです」
34年前、朗読劇を始めるにあたって、演出家の木村さんから多くの資料が送られてきた。その中の1冊に、渡辺さんは思わず目を留めたという。
「それは『いしぶみ』(ポプラ社)