端役人生70年!俳優・加藤茂雄さんと巨匠・黒澤明監督との絆
すると、それを聞きつけた黒澤監督が声を荒らげた。
「おい、うちの人をそんなところで使っちゃダメだよ!」
加藤さんのことを「エキストラの1人」ぐらいの認識でしかなかった若い助監督は、まさかの叱責に、目を丸くするばかりだ。
それまで飄々と俳優人生を振り返っていた加藤さんの目に、光るものが浮かんで見える。
「うれしかった。黒澤さんは『うちの人』と、身内のように僕のことを呼んでくれたんだよ。ちょい役ばっかりだった僕を、この人はそんなふうに見てくれていたのかと思うと、本当にうれしかった」
遺作となった『まあだだよ』(’93年)にも、黒澤監督は「うちの人」をためらうことなく使った。
「主役の松村達雄さんの回想シーン。夜の駅で僕は駅長役だった。
スタジオの隅で撮影開始を待っていると、黒澤さんが僕のところまで来て。『私ももう84歳になるが、もう1本ぐらい撮れそうなんだ』と、話しかけてくれた。スタジオのスタッフは皆、びっくりさ。まさか、あの黒澤監督が自ら歩み寄って、大部屋俳優に身の上話をするなんて、と。若いスタッフがすっ飛んできて、立って待っていた僕に椅子をすすめてくれたよ(笑)」
しみじみと思う。