山本周五郎賞受賞『平場の月』作者が語る「50代恋愛の生々しさ」
と驚いて本を手に取った人もいたはずだ。
「書き始めて、私自身も“幻想上の50歳”というものが頭にあったことに気づかされました。私は今50代後半で、実際には50をとうに過ぎても『われわれはいつ大人になるんだろう?』という感覚なんですが(笑)、イメージする50歳はすごく大人で、自分よりずっと年が上というか。その感じがあったから、主人公たちが何か新しいことをやろう、恋愛をしようとなったとき、幻想上の50歳が邪魔をするような気もしましたね」
小説では、このままもう何もなく人生が過ぎていくと思っていた50歳のふたりが、出会って静かに惹かれ合っていく。
「最初はなんでもないようなことでも、かかわりをもって、気持ちが動いたら、自動的に始まってしまう。もうそれは年齢に関係なく。場所や相手によっては、軽率だ、不倫だとたたかれてしまうこともあるけれど、『それって恋だよね。始まってしまったものはしょうがないよね』とは思いますよ」
たびたび居酒屋で開かれていた「互助会」がいつしか須藤のアパートに移り、ふたりは過去をぽつぽつと語り合いながら徐々に距離を縮めていく。
そんななか、須藤が大腸がんの告知を受ける。