山本周五郎賞受賞『平場の月』作者が語る「50代恋愛の生々しさ」
術後、抗がん剤治療を受ける間、青砥は一緒に暮らそうと提案した。
須藤がストーマ(人工肛門)を装着したり、ストーマのカバーを縫ったりするくだりが、非常にリアルに描かれているが。
「ストーマについては取材ではなく、細かく調べた情報を参考にしました。その後、須藤が青砥の勤務先でパートをするシーンがあるんですが、『ここは実際にやってみないと雰囲気がわからないな』と思って、日雇いの派遣に登録して働きに出ました。リサーチしながらお金ももらえるし(笑)。刷り上がった本に汚れがないかチェックしたり、ビニールのカバーをかけたり、歯みがき粉の箱におまけの糸ようじをつけたり……不定期でしたが、3〜4カ月間は働きましたね」
では、50代のふたりの恋愛描写については、どこからくるものなのだろう。会話やラインのやりとりが、現実に、すぐそこで行われていそうな生々しさをもつ。
「そこは取材できないところなので。
このふたりはそれぞれどういう人か、という想像がまずあって、どうやって近づいていくのかが大切なんだけれど、調べるのではなく、書いてみてわかる部分です。ただ、ふたりがどうやって出会うかは考えました。この年だと、素性がわかる人でないと始まっていかないですよね。