山本周五郎賞受賞『平場の月』作者が語る「50代恋愛の生々しさ」
だから、仕事関係の人とか近所の人、あとは学生時代の人との再会が自然だろうなって。今回は、特別じゃない、普通の人を描きたかったので、特殊な要素は入れていません」
普通の場所で営まれる日常、それが平場ということだ。
「学生時代の青砥と須藤は、私の高校時代のクラスメート——ちょっとやんちゃっぽい男の子と真面目な女の子のふたりをうっすらイメージしましたが、大人になって再会したあとは、特にモデルはいないですね。彼らが勝手に語ってくれた感じで、書き出したら一度も悩むことなく書き終えました。逆に、下手に取材してしまっていたら書けなかったと思います」
須藤と一緒になろうと決めた青砥だが、須藤はそれを拒み、これ以上会わないと言い放つ。「1年間だけ会わずに待つ」と約束し、ひとりの生活に戻った青砥はある日、別の同級生から須藤の「その後」を聞く。
このふたりのように、ほぼ誰にも知られず、ふっと始まってふっと消えていく恋は“普通にある”のかもしれない。
「年が年だけに、『こんなこと、あんなことがありました』なんてワーワー口に出さないだけで。
そっと胸の中にしまって、恋までもいかず淡いままで通り過ぎていることは山ほどあるんじゃないかな、という気がしますよ。