樹木希林さん遺作 室温50度の撮影…女将が見た最後の女優魂
この旅館は希林さんにとって思い出の場所でもあったからだ。
「小津安二郎監督の遺作となった『秋刀魚の味』(’62年公開)は、監督の定宿でもあった茅ヶ崎館で撮影も行われました。映画には希林さんが付き人をしていた故・杉村春子さんも出演しており、希林さんは50年以上前にも訪れていたのです」(映画関係者)
森さんは初めて会った希林さんの人柄にたちまち惹かれたという。
「大女優なのに、本当に自然体というか、“あれをしてほしい、これをしてほしい”といった注文も全然ない方でした。(和室に)組み立て式の簡易ベッドを運び入れましたが、特に『布団を厚くしてほしい』といったこともおっしゃいませんでした。食事についてお伺いすると、『おそばか、そうめんなら』とのことでしたので、おそばをゆでて差し上げました。あと、ちょうど桃があったので、お召し上がりになりましたね」
ひょうひょうとしていた希林さんだったが、撮影は過酷だった。猛暑日で気温は40度を超えていた。
しかし撮影スタッフが“静かなシーンを撮りたいから”と、台所の冷房どころか冷蔵庫のスイッチも切ってしまい、室温はなんと50度近くにもなったというのだ。「女将役の樹木さんが、おにぎりを握るシーンでした。