2020年11月16日 11:00
山谷のけんちん汁店 84歳の店主が見た日雇い労働者の町の盛衰
しかし、好景気はやがて終わりを告げ、オートメーション化など、国の産業構造も大きく変化した。それにともない山谷の町も様変わり。日銭を稼げる仕事はどんどん少なくなって、頑健だった労働者はみな、高齢者になった。多くの簡宿は、マンションなどに建て替えられた。
現在、山谷に暮らすかつての労働者たちは4千人足らず。そのうち約9割が、生活保護の受給者とされている。
「今日はとくに(客は)少ないんじゃないかな。もう月末が近いでしょ。
福祉のお金(生活保護費)ってね、毎月1日だか2日だか、月初に出るんだって。だから月末近くなるとみんな、お金なくなっちゃうんだよね」
新平さんの言ったとおり、2杯目のけんちん汁が売れたのは、開店から15分以上経過した後のことだった。
「それでも一時はね、いっぱいあった旅館(簡易宿泊所)が『ホテル』に名を変えて。外国人の観光客なんかもたくさん来てた。うちにも外国のお客さん、来たこともあった。でもそれもコロナでいなくなっちゃったね。山谷はすっかり寂しい町になっちゃった……」
別の日の朝。仕込みを続ける新平さんに「いつまで商売を続けるつもりですか」と聞いた。
「もうね、何年か前から商売にはなってないんだ。