くらし情報『山谷のけんちん汁店 84歳の店主が見た日雇い労働者の町の盛衰』

2020年11月16日 11:00

山谷のけんちん汁店 84歳の店主が見た日雇い労働者の町の盛衰

だって、数えるほどしか売れない日もあるんだから。それに、骨折もして体調、悪かったから、少し前までは、85歳くらいまでかな、なんて言ってたんだけど。先日、誕生日がきて84歳になって。あと1年か、と思ったら、まだできるような気もしてきたし……。わかんないな、こればっかしは」

ここで新平さん、いったん仕込みの手を止めて「いいもの見せようか」と、ヒロ子さんを伴い店の外に。そこにあったのは、新平さんが買い出しに使う自転車。新調したばかりだという。「ちょっとサドルが高いんだ」と言いながら、曲がった腰で器用に乗りこなしてみせると、一呼吸置いてこうつぶやいた。


「今日は月の初めだからね、お客さん、少しは多いと思うよ」

夫の言葉に、妻は「そうだね」と、優しく相槌を打った。夜明け前、西の空の名残りの月が、ふたりの足元を柔らかく照らしていた。

「女性自身」2020年11月24日号 掲載

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