2021年3月29日 11:00
「ダウン症の兄に守られていた」元ヤングケアラー語る過去
ショートステイへ向かう兄が、病床の父に言った。
「39年間、ぼくを育ててくれてありがとうございました。ぼくは、だいじょうぶです」
そう言いながら、親指を立てるしぐさをすると、昏睡状態だったはずの父親が一瞬、目を開けた。
「驚いたのは、父も兄に向かって親指を立ててほほ笑んだんです。その数時間後、父は64歳の若さで息を引き取りました」
パニックに陥るからと反対する母親を押し切り、持田さんは兄に父の死を報告した。兄は電話口で、逆に持田さんに尋ねた。
「母は泣いてますか?妹さんは泣いてますか?」
「泣いてないよ」
「じゃ、ぼくも泣きません」
必死で悲しみをこらえているのが電話越しにも伝わった。持田さんは瞳を潤ませながら、当時をこうふり返る。
「私はこのとき、自分のことより母と妹を心配してくれた兄の優しさに、初めて気づきました。そうか、守られていたのは、実は私だったんだと……」
持田さんは現在、ケアラー支援を行う「ケアラーアクションネットワーク協会(CAN)」代表理事。家族に守られながら、ヤングケアラーの孤独に寄り添っている。
「女性自身」2021年4月6日号 掲載
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