2021年10月11日 11:00
「原点は恩返し」全盲の佐藤ひらりがパラで国歌の夢を叶えるまで
大舞台に立った感想を尋ねると、ひらりさんはこう言って、あどけなさの残る顔に、無邪気な笑みを浮かべてみせた。
まだ二十歳。だが、聴衆を前にして歌うキャリアは、すでに15年に及ぶ。小学4年生のときには、自らが作詞作曲した曲のCDもリリースした。
早熟な彼女の活動を支え続けているのが、母・絵美さん(47)だ。わが子の目に重い障害があると医師から告げられた絵美さんは、生まれて間もないひらりさんに向かって、こう語りかけた。
「ごめんね、でも絶対守るからね」
その日から20年。
「ずっと守ってもらって、すっかり頼りきりになりましたー」とおどける娘に、母は「ほっんとだよー」と笑顔でツッコミを入れる。
声を上げて笑い合う母娘の表情に、悲愴感は一片もない。
しかし、彼女たちの前に壁があったのも事実だ。ことあるごとに「全盲の子には無理」「無謀すぎる」とやゆされ、言外に反対されたことも一度や二度ではない。それでも母娘は、障害なんてものともせず、周囲の無理解を笑い飛ばし、歩みを止めなかった。目標を1つずつクリアし、いくつもの大きなステージに登り続けた。
そんな母娘にとっても、この夜は特別な、長年待ち焦がれた夢の舞台だった。