死の際で見つけた幸福…1歳9カ月のわが子を看取った女性が始めた「理想のホスピス作り」
5日後、眠るように逝く夕青くんを千尋さんと夫は、穏やかな気持ちで見送ることができた。
「最後の瞬間が近づくころ、『ありがとう。幸せだね』って声をかけることができました。『死なないで』ではなく、なぜだか自然に出てきた言葉です」
それから5年後の2024年3月。千尋さんは福井市内の講演会場にいた。小雪のちらつくなか、結婚披露宴も執り行われる大広間に集まった約100人の来場者に向けて、千尋さんは凜としたたたずまいで話し始める。
「みなさんはこどもホスピスにどんな印象をお持ちですか?私の講演を聞いていただいたあとは、思ったより悲しい場ではないと感じてもらえたらうれしいです」
講演前は緊張の面持ちであったのがいまは別人のよう。日本におけるこどもホスピスをとりまく現状について、スライドをまじえながら柔らかな口調で語りかける。
「こどもホスピスはこういうものです、という明確な定義はありません。私たちは、すべての親子に『今日も楽しかったね』と言ってもらえる第二の家を提供することを目指しています」
1982年に英国で産声を上げたこどもホスピスは欧米では広く普及。英国に52カ所、ドイツにも30の拠点を置く。