「上田紬」女性工芸士が海外で気づいた民族衣装の素晴らしさ
(カリナさん)
時を同じくして、ドイツの和食店で働いていた弟・良馬さん(42)も実家に戻ってきていた。2人で工房をもり立てていこうと話し合い、両親にそのことを伝えた。
「とにかく、できることから始めようと思いました。まずは仕事を覚えることから」(カリナさん)
祖母の代から働いている職人の女性たちに教わることから奮闘は始まった。片っ端からメモを取り、写真を撮り、ときには動画も撮って、紬のあらゆる工程を覚えていったのである。最初は花瓶敷きなど小さなものからはじめ、やがて自分でデザインを考案してコツコツと作りはじめたという。
「それがすごく楽しいんです。自分の手のなかで、柄が出来上がっていくのが面白くて」(カリナさん)
工房に戻って10カ月後だった。
ふらりと入ってきた男性が、カリナさんの練習代わりに織っていたカラフルな反物を見て、「とってもいいね。あなたの名前で作ったものは全部買い取るから、好きな値段を付けてください」と言った。京都・宇治の元卸問屋「しるべ」の代表、山田標件さんだった。いまも取引のある山田さんは、この日のことをよく覚えている。