ベルカントの華「狂乱の場」だけを集めた前代未聞のリサイタルに挑む佐藤美枝子
声楽家にとって最も大切なのは“響き”である。そして私が今、声楽家として爛熟の時であると。そんなわけで、最初は『響爛』だったのを、蘭の花の開花のイメージも重ねて『響蘭』と置き換えてくださいました」
一般的に、繊細なレッジェーロのソプラノの声は、年齢とともに変化して重く、低くなっていく。彼女のように若い時から声質も声域も変わらないままキープし続けているのは奇跡と言っていい。
「声域は低いほうに広がってきましたが、上は維持しています。高音が出なくなったからレパートリーを移行するというのは、私の中ではダメなんです(笑)。そうなった時には、私は歌をやめると思います。それは、日本音楽コンクールとチャイコフスキー国際コンクールという、国内外の大きなコンクールで1位をいただいて背負った十字架のようなものです。
コンクールの1位をいただいた者として、恥ずかしくない歌い手でなければならない。歌をやめるときまで示し続けなければならない義務だと思っています」
ごまかしのない、真の“爛熟”。「声の響きを助けてくれる、歌手にとっては別格のホール」(佐藤)と愛する紀尾井ホールで、4つの〈狂乱〉を一気に体験できる。