Bialystocks、全国ツアー最終公演レポート。ライブバンドとして新たな進化を示した濃密なステージ
Photo:Kana Tarumi
Bialystocks(ビアリストックス)が9月10日(日)、全国ツアー『Bialystocks 2nd Tour 2023』の追加公演を東京・EX THEATER ROPPONGIで開催。ジャズ、フュージョン、AOR、ハードロックなどを融合したハイブリッドな音楽性、奥深い感情的な物語を想起させる歌を軸にした濃密なステージを繰り広げた。
2019年、映画作家でもある甫木元空(Vo)の監督作品『はるねこ』の生演奏上演をきっかけに結成されたBialystocksは、甫木元のエモーショナルな歌唱、そして、菊池剛(Key)による普遍性と前衛性を併せ持ったサウンドによって注目を集め、2022年に1stアルバム『Quicksand』でメジャーデビュー。2度目の全国ツアーで彼らは、ライブバンドとしての新たな進化を明確に示してみせた。
開演を告げるSEは、レコードノイズが混じった、ノスタルジックなピアノの旋律。〈グランパーで どっかめざして〉というフレーズが聴こえてきた瞬間、緞帳が左右に開き、大きな拍手と歓声が巻き起こる。静寂なオープニングは激しいドラムのフィルによって一変。爆発力をたたえたバンドサウンドによって心地よい解放感を生み出した。
しなやかなファンクネスをたたえた「コーラ・バナナ・ミュージック」、美しいファルセットボイスが響いた「花束」、ジャズのスタンダードのような雰囲気を備えた「またたき」と色とりどりの楽曲が連なっていく。サポートミュージシャンの朝田拓馬(Gt)、Yuki Atori(Ba)、小山田和正(Ds)、秋谷弘大(Syn/Glo/Gt)、オオノ リュータロー(Cho)、早川咲(Cho)によるアンサンブルも素晴らしい。
「ツアーに出て2カ月。東京、札幌、福岡、大阪、名古屋、今日は最終公演です。ぜひとも一緒に楽しんでいただけたらなと。よろしくお願いします!」(甫木元)というMCの後も、ジャンルを横断しながら、繊細さとダイナミズムを併せ持った音楽世界を創出した。カントリー音楽の要素を取り入れた「Emptyman」では、アコギ2本とウッドベースを中心にオーガニックな音像を描き出す。「ただで太った人生」はオルタナフォーク的なアレンジが施され、「差し色」のエンディングでは、Yuki Atoriが数分間に及ぶジャズ/フュージョン系のソロ演奏を披露。
その余韻を心地よいアコギの響きが受け取り、「朝靄」へ。滑らかなピアノの音色と〈この手から溶けた風景 はるか遠く募るの響く〉というラインが滲み合い、穏やかなサイケデリアと称すべきサウンドへと結びついた。
さらに「All Too Soon」の後半では、インプロビゼーション的なパフォーマンスへ。優れた技術と奔放なアイデアが交差しながら、この瞬間だけの刺激的で美しいサウンドスケープを生み出してみせた。これまでのライブで映像を交えた演出も取り入れていたが、今回のツアーでは演奏と照明を中心としたオーソドックスな構成を選択したBialystocks。原曲のポテンシャルをさらに引き出すアレンジメント、凄腕ミュージシャンたちの独創的にして的確な演奏によってオーディエンスに豊かな刺激を与えるステージからは、このバンドの音楽的な魅力がダイレクトに伝わってきた。
できるだけギミックに頼らず、音楽の力によって豊潤でスリリングな空間を生み出す。今回のツアーの特徴がもっとも強く感じられたのは、「あくびのカーブ」だった。
〈手綱を切って水の音と あくびのカーブを帰ろうか〉という想像力を刺激するフレーズを響かせた後、甫木元、菊池、コーラスのふたりはバックステージへ。サポートメンバーだけでハードロック的なセッションが繰り広げられる。さらに菊池がステージに戻り、エレキギターを演奏。菊池、秋谷、朝田によるトリプルギターの競演に反応し、会場を埋め尽くした観客も大きな歓声を上げた。
星空をイメージしたライティング、ミラーボールの光を取り入れた「Winter」からは、甫木元のボーカル表現を堪能できるシーンが続いた。特に心に残ったのは、今年4月にリリースされた「頬杖」。原曲は穏やかに洗練されたポップナンバーなのだが、ライブでは甫木元が突如として叫ぶように歌う場面が挿入され、楽曲に込められた深い想いを放射。エンディングの〈お願いだから次に進むまで いつもの場所で会えたら〉というフレーズがさらに強く伝わってきた。
7月に発表された「Branches」もこの日のライブの大きなポイントだった。抑制の効いた平歌、一気に解放されるサビのメロディのコントラスト。そして、〈便りはまだ届かない たまにはほら晴れ間が〉に象徴される、希望や光を待ち望む心象風景を描き出した歌詞。おそらくこの曲は、アルバム『Quicksand』以降のBialystocksの方向性を示す、ひとつの指針になると思う。
Bialystocksのアンセムのひとつであるポップチューン「Upon You」(カラフルなコーラスが美しい!) 、そして、“すべては過ぎ去り、旅は続く”という人生の本質を照らし出す「光のあと」でライブ本編は終了した。
大きなハンドクラップに導かれ、再びメンバーとサポートミュージシャンがステージに登場。エレピの響きと〈星がこぼれる 月が満ちてゆく夜は〉というフレーズで始まるミディアムチューン「日々の手触り」を披露し、会場全体を心地いい感動で包み込む。「素晴らしいメンバー、素晴らしいスタッフ、素晴らしいお客さんとツアーを回れて幸せでした。
ありがとうございました」(甫木元)という言葉に導かれた「雨宿り」でツアー『Bialystocks 2nd Tour 2023』はエンディングを迎えた。
10月12日(木) 22:00~23:00、このライブのダイジェスト版がスペースシャワーTVで放送(SPACE SHOWER TV『Bialystocks 2nd Tour 2023[追加公演]EX THEATER ROPPONGI(2023.09.10)』)。この秋にはテレビ東京系ドラマ24『きのう何食べた? season2』エンディングテーマに決定している配信シングル「幸せのまわり道」がリリースされ、2024年1月18日(木) には、甫木元、菊池の二人編成による公演『Bialystocks 二人編成ライブ 2024 冬』の開催が決定。奔放なクリエイティビティ、豊かなポップネスを共存させた彼らの音楽はこれから、さらに大きく発展していくことになるはずだ。
Text:Tomoyuki MoriPhoto:Kana Tarumi
<公演情報>
Bialystocks 2nd Tour 2023
9月10日(日) EX THEATER ROPPONGI