2024年5月6日 12:00
『関心領域』思考欠如の恐ろしさ……。アウシュビッツ強制収容所の隣で暮らす家族【おとなの映画ガイド】
一緒に行きたくないと。ふたりの結婚生活には亀裂が生じるが、彼は行ってしまう。夫婦はできる限りのことをして、すべてを投げ出すことはない。そしてハッピーエンドを迎える……ひとつ言い忘れていたのは、彼はナチスのアウシュビッツ強制収容所の所長だということ」。比喩的に「会社」といっているが、彼の雇い主は国家であり、彼の仕事は、収容されたユダヤ人を効率よく虐殺すること、なのだ。
映画では、淡々と、まさに淡々と収容所所長ルドルフ・ヘスの家族の日常が展開される。妻が、大量に届けられるユダヤ人の衣服や装飾品からお気に入りの品を引き抜くことも、ごく当たり前の楽しい日常だ。「このダイヤモンドはどこにあったとお思いになる?歯磨きのチューブの中よ。
ユダヤ人って頭いいわね」といった会話もフツーに交わされる。妻の最大の関心事は丹精こめて育てているお花がいっぱいのガーデン。夫の関心事は軍における出世、そして自分の家族を守ること、である。
ナチス・ドイツというと、あの、片腕をふりあげ、ファナティックに叫びながら演説するヒトラーの姿と、右手をあげてそれに「ハイル・ヒトラー」と答える狂信的なユニフォーム集団を思い浮かべてしまうが、彼らは常にそんな風に熱く興奮しているわけではない。