【観劇レポート】3年の時を経て上演中のミュージカル『アナスタシア』キャストの魅力に迫る
ちなみに石川は1998年に日本公開されたアニメ映画版ではディミトリの声を吹き替えている。ディミトリ役者が時を超えてヴラドを演じていることもまた、作品のロマンを深めている。
堂珍嘉邦
田代万里生
アナスタシア暗殺の命を受けながら、街角で出会った少女アーニャに心惹かれるボリシェビキの将官・グレブは、堂珍嘉邦、田代万里生、海宝直人がトリプルキャストで演じている。この役もまた三者三様だ。前回から続投する堂珍は将官としての冷酷さを表現しつつも、狂気に走らず理性的で冷静さもある人物像。理性的であるからこそ、過去に囚われている悲劇性が際立つ。メインキャストの中では唯一再演からの参加となる田代は、登場のシーンが圧巻だ。サンクトペテルブルクの街で革命政府に不満を募らせる民衆に演説をする姿が扇動者の迫力で、狂信的な表情を一気に押し出してくる。その後徐々にグレブの人間味を足していく緩急が上手い。また本来とても美しいテノールの田代が、太い声を響かせているのも注目だ。
そして初演ではディミトリとして出演した海宝が、再演ではディミトリとグレブの二役に挑戦しているのも話題。海宝グレブは静かな芝居で、職業軍人といった様相で淡々と演じ、それが逆にグレブの油断ならなさをひたひたと客席に浸透させていく。