くらし情報『大野和士が新国立劇場《ボリス・ゴドゥノフ》を語る ──人間の内面を巧みに描く、天才ムソルグスキーの大傑作』

2022年11月15日 12:00

大野和士が新国立劇場《ボリス・ゴドゥノフ》を語る ──人間の内面を巧みに描く、天才ムソルグスキーの大傑作

それを考えることなくしてはできないと思います。それゆえになかなか演奏できないという国もあるわけです。この作品の場合には、それがあり得る。これがたとえば愛の二重唱で満ちているようなオペラであれば、どんな国のどんな時代でも、それが検閲で禁止されたことはないわけですよね」

ただしムソルグスキーが描いているのは、人間のドラマであり、内面的な精神描写の巧みさがこのオペラの最大の魅力だろう。その特質を端的に示す例として、大野監督はオペラ冒頭のボリスの登場シーンを挙げる。

大野和士が新国立劇場《ボリス・ゴドゥノフ》を語る ──人間の内面を巧みに描く、天才ムソルグスキーの大傑作


「《ボリス・ゴドゥノフ》の原作は史実をもとにしたプーシキンの戯曲ですが、ムソルグスキーは台本を完全に書き直しているんですね。民衆が「ボリスよ、私たちの皇帝となってくれ」という大賛歌が歌われた後に、普通だったら「よし、皆の者。私について来い!」というのがオペラの常套ですよ。
ところがこのオペラでは、「私の心は千々に乱れている……」と、作品の中でも一番暗いと思われる音楽が出てくるんです。なぜなら、プーシキンの戯曲では、本来帝位を継ぐはずだったドミトリーを殺したのがボリスです。その罪の意識、あるいは皇帝であることのプレッシャーや、裏切られるのではないかという不安。

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