ふたりの俳優で登場人物は10人あまり！ あらゆる困難を笑いで軽やかに吹き飛ばすミュージカルの創作現場を訪ねた

だが、栄光へのカギを握る曲作りに与えられた時間はたった数時間！ ふたりにとって切羽詰まった状況下、個性的すぎるキャラクターが次々と登場しては去り……。勘の良い方ならお分かりのはず。「あの兄弟、一緒にいるところを見ないな」というセリフが何度も出てくるくらい、ジミーが舞台からはけたと思えば次の瞬間、ジミー役の原田は別の登場人物になって登場。同じくボビーがはけると、ボビー役の太田が即座に別の登場人物で登場する、といった具合。その登場人物は耳が遠い老音響エンジニアからセクシーなスター女優まで、性別も世代もキャラクターもあまりにバラバラ。演技や声色だけでなく身に着けるモノ、手に持つ小道具にもその都度変化が必要で、段取りの多さも容易に想像がつくだろう。舞台上からはけても声だけは聴こえ続けていることがしばしば。“出ずっぱり”とは表現できなくても、初めから終わりまで絶えず何パターンもの演技を続けている状態であり、かつミュージカルであるので当然、歌って踊ってがプラスされる。俳優にとっては相当にタフな舞台だ。


この日見学した稽古も、演技面への演出というより、流れや小道具の扱いに時間が割かれていた印象。スムーズな展開が生み出すテンポ感が肝要な舞台であることが、現場にいる全員の共通認識のはずだ。