【ジェーン・オースティン生誕250周年】ジェーン・オースティン 著 パーカー敬子 訳『理性と感性』第一巻 第一章特別公開
ヘンリー・ダッシュウッド氏は、先妻との間に息子が一人、今の後妻との間に娘が三人いた。息子ジョン・ダッシュウッドは真面目なしっかりした人で、亡き母の莫大な財産によって生活は充分に保証されていた。その大財産の半分は彼が成年に達した時に既に彼の所有となっていた。その直後の結婚によっても彼の資産は増していた。妻のファニーは現在でもかなりな金持ちだった上に、母の死後にはその遺産も当てにできる身の上だった。このような事情であるから、異母妹たちにとって重要なノーランド継承の件は、ジョンにとってはそれほど重要ではなかった。この姉妹三人は、父がノーランドを受け継いだ時に発する利益の他には、殆ど何も財産がなかった。母には財産がなく、父は年収七千ポンドを自由に使えるだけだった。
というのは、先妻の財産の半分は息子のものであったし、夫の彼自身は存命中に残りの半分の財産を使えるだけだったのである。
ノーランドの主の老人は亡くなった。彼の遺書が読み上げられ、遺書の殆どがそうであるように、喜ぶべきことと失望とが半々だった。老人は自分の地所邸宅を甥のヘンリー・ダッシュウッド氏から取り上げてしまうほど不公平でも恩知らずでもなかったが、―遺書の言葉遣いが災いして遺産の価値が激減する結果となった。