【ジェーン・オースティン生誕250周年】ジェーン・オースティン 著 パーカー敬子 訳『理性と感性』第一巻 第一章特別公開
しかし長らく待った財産は、たった一年しか彼の物ではなかった。伯父の死後一年のうちに彼自身も亡くなってしまったのである。伯父から受けた遺産も含めてたった一万ポンドが妻と娘達に遺されただけだった。
死が間近と分かると、息子ジョン・ダッシュウッドが呼び出された。その息子にダッシュウッド氏は病中の渾身の力を振り絞って、継母と異母妹達の面倒を見てくれと頼んだ。
息子のジョン・ダッシュウッドは一家の他の者ほど情の深い人ではなかったが、このような時にこのような頼みを聞いて心を動かされ、できるだけのお世話はしますと約束した。このような約束を聞いた父親は安心したが、息子の方はどうしたら慎重と思える範囲内で世話をするかと考えていた。
ジョン・ダッシュウッドは不親切な人ではない。
かなり心が冷たく、かなり利己的なのを不親切と言わなければ、のことであるが。大体のところ彼は人の尊敬を受けていた。というのは、通常の仕事にかけては立派にやってのけたのである。もし彼がもっと情のある女と結婚していたなら、彼は今以上の立派な人間になっていたかも知れない。―若くして結婚し、妻を非常に愛していたのだから、彼自身がもっと情の深い人間になっていた可能性はある。