と振り返る。
当初、時川監督は、映画館の姿を記録するドキュメンタリー映画を考えていたが企画が進まず、ある時に劇場の人々に「自主制作みたいな感じで、プロの俳優でなく大黒座で実際に働いている人たちが出演する短編映画でも撮りますか?」と話したところ、大黒座の人々は泣き出したという。「122年続いた劇場へのスタッフの方々の強い思い、それほど大切な場所なのだと、その時初めて僕も気づかされた」という時川監督は、映画館のスタッフひとりひとりに聞き取りを行って、エピソードや思い出を脚本に盛り込んでいったという。「建物は実際の大黒座で撮影していますので、壁の手書きメッセージを含めて本物です。閉館日のセレモニーも実際に撮影して、物語の一部として使っています。実話とフィクションの物語がひとつに融合することで、消えゆく映画館の物語を鮮明に描こうとしました」
老朽化や市場の変化などの理由で、老舗の映画館が閉館になってしまうことがあるが、その姿や劇場で働いていた人々、客席でスクリーンに向き合ってきた観客の想いは、記録されることなく消えてしまうことが多い。映画『シネマの天使』は、シネフク大黒座の“姿”だけでなく、そこに集った“想い”も後世に残そうとする試みで、時川監督は「時代が変わる中で、何かがなくなってしまうのは仕方が無いことかもしれません。