森光子が最も愛した喜劇を高畑淳子が熱演『雪まろげ』
も加わり、さまざまな騒動が巻き起こっていく。
全員が全員濃厚というキャスト陣だが、そのやり取りは軽妙でテンポ感も抜群。それぞれの人物像も明確で、大笑いしながらあっという間に物語の世界に引き込まれる。それに加えて世界観を作り上げていたのが津軽弁。青森育ちの銀子やお千賀たちの会話はもちろん、劇中で大吾の作品として披露される青森在住の詩人・伊奈かっぺいの詩、タマ伸也が歌う当時の歌謡曲などは全て津軽の言葉。独特のなまりはやさしく響き、言葉の一つひとつをより深く沁みこませてくれるようだった。
劇中では、夢子がつい嘘をついてしまうようになった理由や、お金に執着する銀子が密かに背負ってきたもの、大吾や芸者仲間の過去が丁寧に描かれていく。誰かのやさしさやいたわりが誰かの“雪まろげ”を溶かし、その奥にあった真実をポロリと見せる。
「嘘」が描かれた物語だが、それは「嘘の罪」では決してない。
印象的だったのは、降りしきる雪の中で夢子が言葉もなく佇むラストシーン。セットもなにもないだだっ広い舞台を身ひとつで埋め尽くした高畑淳子に、女優魂を見せられた気がした。これは劇場でしか味わえないもの。ぜひ体感してほしい。