くらし情報『“同郷同年”の呪いに縛られた中年男子の悲哀が現代社会をあぶりだす』

2017年9月12日 17:50

“同郷同年”の呪いに縛られた中年男子の悲哀が現代社会をあぶりだす

同じ村で一緒に育ってきた仲間――互いを助け合う意図で発せられる“同郷同年”という言葉だが、演出の宮田が「何度も何度も繰り返される中で、“呪い”の言葉になっていく(苦笑)」と語るように、見えない枷となり互いを縛り合う。

精神科医の仕事の傍ら、劇作家としても活動するくるみざわは同賞の最終候補の常連。選考委員を務める宮田は本作について「なんてめんどうくさい人間を描くんだ(笑)! と惹きつけられた」と語るが、魅力的かつ厄介なのは、彼らの人物像、そして関係性が誘致運動の状況の変化に伴いガラリと変わっていく点。

流されるままに運動に参加し、住民投票に惨敗し村を捨てる章(吉見一豊)の変貌ぶりは笑いと共に空恐ろしささえ感じさせる。当初、3人のリーダーに見えた正也(中野英樹)は処分場誘致を「日本、いや世界のため」と語るが、物語が終始、彼の経営する小さな薬局で展開するのと同様に、彼の脳裏にある世界とはこの薬局、そして薬学部に通わせている息子の将来というちっぽけな空間。日本の行く末を左右する、高度に政治的な問題を論じているはずなのに、そこにあるのはメンツやプライド、嫉妬、将来への不安のみであり、拠り所は同郷同年という呪詛。

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