浦井健治ら出演、日韓の“チーム力”が生んだ壮大な思想劇が開幕
世界中で奔放な体験を繰り返すペールの旅の同伴者となり、トーンの変化する空間を浮遊する興奮が味わえるのだ。また国広和毅と関根真理の演奏による音楽が、より物語の寓話性を引き出す効果をあげている。
虚栄心に満ち、非情で、実のところ臆病な男という異質の主人公ペールを、浦井が天真爛漫に欲望をさらけ出し、思い切りの良い表現で魅力的に立ち上げていた。故郷を飛び出した頃の無邪気な顔を、冒険を経て策士の面構えに巧みに変化させていく。それでもペールの根本には無垢な魂があることを信じさせる、稀有なたたずまいを持った俳優である。母オーセを演じるマルシアは、小気味良く爆発させる明るさによって情の深さや空しさを痛切に伝えてくる。ユン ダギョンが扮したペールを誘惑する“緑衣の女”は、昆虫のようなユニークな風貌と独特な動きに目を奪われた。また、イプセンの戯曲では船のところを飛行機に替えたシーンは、ペールがいきなり現在を飛び越えて未来を旅しているようにも感じられて面白い。
そこに“見知らぬ乗客”として現れるキム・デジンの、得体の知れない不気味な存在感が光る。
長い年月をかけ、さまざまな場所で己の生の爪痕を残してきたはずのペールが、旅の果てに「自分自身だったことなど、ただの一度もない」