映像というのはつまり光と影だ。太陽神の高僧ザラストロと夜の女王との対立を背景とする《魔笛》の構図と重なるし、途中でその善悪がひっくり返る物語は、まさにポジとネガの反転。ケントリッジの木炭画のモノクロームな世界観にぴたりと合致する。有名な「プロビデンスの目」などフリーメイソンの象徴も描かれていて、そこにいろいろなメッセージを読み取ることもできるのだけれど、あまり難しいことを考えなくても、あるいは子供たちでも、素直に楽しめるはず。百聞は一見にしかず。オペラ・ファンなら、まずは体験したほうがよさそうだ。
歓迎したいのは、そんなかなり派手な映像の動きも、まったく音楽の邪魔をしていないこと。というより、すべてがモーツァルトの音楽に丁寧に寄り添って展開しているのがうれしい。
その音楽をまとめるのは、新国立劇場初登場のローラント・ベーア。(チェンバロでなく)ピアノの使用など、今となってはモダンなアプローチがかえって新鮮に聴こえる。セリフ部分で、打楽器がさまざまな効果音(短剣の「シャキーン!」とか)をつけているのも面白い。歌手陣で特筆すべきは、ザラストロ役の若いバス、サヴァ・ヴェミッチだ。とにかく声がすごくて、ひとりだけマイクをつけているのかと思うぐらい響き渡る低音が印象に残った。