女優4人がバトる名作戯曲に若手俳優たちが挑む。佐藤アツヒロ演出『楽屋』開幕
AとBが繰り出す劇中劇のセリフもテンポよくスピーディで、古典のとっつきにくさを払拭。伊勢と照井のタッグが佐藤演出版『楽屋』の“色”を明確に打ち出した。
一方で女優Cを演じる瀬戸祐介は、皆が憧れる『かもめ』のヒロイン・ニーナ役を手にしている女優。こちらは逆にクラシックなドレスに、いかにもな大女優然としたふるまい。パンキッシュな死者たちに比べて抑圧的なのが面白い。さらにここに、Cにニーナ役を譲るように迫る若手女優Dがやってきて物語は予期せぬ方向へ……。病的で、何を考えているのかが掴めない怖さがある女優Dは星元裕月。ゴス系の衣裳がとびきり似合う可愛らしさと、たまに発する低い声のアンバランスさがDの不気味さを醸しだしていて、底知れぬ迫力がある。
なかなかの当たり役だ。4人の俳優たちが、ことさら女性を演じようとするのではなく、自らの個性の延長線上にある“女優”を作り上げていることで、性別を超え、舞台芸術に魅せられた魂の普遍性が浮かび上がってくる。演出の佐藤は、「感染症対策としてステージをビニールシートで囲っています。その空間を逆手にとり、<楽屋を覗いている>という演出にもなっています。70分の女優4人の物語をぜひ楽しんで」とコメント。公演は6月13日(日)まで。チケットは発売中。
取材・文:平野祥恵