そして、マサシは、いい聞き役でもあった。
和紗の話す話を静かに聞いて、うなずき、必要な時だけボソッと意見を言った。「もう敬語とかわからなくなってんだ」という言葉通り、マサシは、つねにぶっきらぼうな口調ではあったけれど、相手の話をちゃんと聞いて、しっかり考えて答えてくれるところには、生来の几帳面さが窺えた。
マサシと話していると、自分の言葉が、深い湖の中にポーンと投げ込まれ、波紋を広げながら深く沈んでいくような気がした。そこには、全面的に肯定して受け止めてもらえている、という安心感があった。
初めて会うのに、懐かしく、触れ合っていなくても、相手の体温をつねに生々しく感じた。
初めてキスをしたのは、マサシのほうからだった。
「また明日」と和紗が言い、名残惜しそうに見上げると、マサシの目が唐突にうるんで、サッと抱き寄せられた。
そして、顎を片手でとらえると、まるで騎士がするような完璧な仕草で、斜めに和紗の唇にキスをした。
抗えるわけはなかった。
遠くに、村で奏でられるバイオリンやオルガンの音が聞こえた。
マサシの唇は、深い夜の匂いがした。
一度触れ合ってしまえば、もう歯止めは利かないだろう。