恋愛情報『【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長』

2019年5月24日 21:00

【小説】ひと夏の恋、永遠の恋。/恋愛部長

どうして、あのまま彼についていかなかったんだろう。もうここに、彼はいない。彼は、永久に、失われてしまったのに。

窓の外を流れていく、日を受けて黄金色に輝くなだらかな丘陵を見ながら、和紗はただただ静かに涙を流した。

パリに着いた時は、正直少しホッとした。

田舎の風景の中にいたら、否が応でも思い出してしまう、この夏の日々のことを、せめて街中では思い出さず済むだろうからだ。

だが、そう思ったのは早計だった。一晩開けて、窓を開けると、石造りの街並みを見ても、やはり、そこにはない田園風景の幻を追ってしまう。
そこにはいない男の影を追ってしまう。そして、ただただ切なくて胸が苦しくなるのだった。

どうしようもなくて、ケータイで、1日に1度はマサシにメールをした。内容は他愛もないことだった。そして、最後に必ず、jtbと記した。

フランス語の略語で、「キスを、あなたに」。

マサシからの返事は、ほとんどなかった。きっと、メールは苦手なんだろう。
ぶつくさと言う彼の低い声が聞こえてくるようだった。それでも、送らずにはいられなかった。

マサシと離れていることがつらく、毎日が砂をかむように虚しかった。

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