たぶん、マサシも、同じように感じているのだろう、と和紗は思った。
■遠ざかる季節
1か月の休暇を終えパリに戻る日、マサシはマルセイユの自分の職場に帰って行った。
駅で、黙ってしばらく抱き合った。
どちらも、次に会う日の話はしなかった。ただ、じっとお互いの目を見つめ、この時間が永久に続けばいいのに、と思った。
これで、もしかしたら2度と会うことはないのかもしれない。そう思うと、手を放すことができなくなりそうだったから、「またね」とだけ言った。マサシは黙ってうなずいた。
一度、離れてホームに向かおうとして足を止め、踵を返してマサシに駆け寄り、抱きついた。最後に、一度だけ、長い長いキスをした。
列車の窓からホームは振り返らなかった。あまりにあっけなく列車は出発し、スピードを上げて、懐かしい景色を後ろに吹き飛ばして行った。
すぐに、恐ろしい喪失感に、打ちのめされた。
目に飛び込んでくる車窓の風景が、まだ南仏の懐かしい夏の色をそこに宿していて、ただそこにいないただ1人の人間の不在を大声で告げているようだった。どうして、私は、彼と別れて来てしまったんだろう?
和紗は喪失感に押しつぶされそうになりながら、考えた。