そんな時に、「パリにデザインを学びに行かないか」と雇い主であるデザイナーの師匠に話を持ちかけられたのだった。
パリは、デザイナーにとっては憧れの地だ。迷うことなく、ふたつ返事で行くと答えた。亮平に相談はしなかった。そして、3か月後には住居を畳んで、パリに飛んでいた。
亮平は、出国の見送りには結局、遅刻してたどり着けず、空港から車で約15分ほどの地点から、最後のメッセージを飛ばしてきた。
「ごめん、もう間に合わないからここから。あっち行っても元気で。
着いたらまた連絡して」
その言葉を、空港のゲートをくぐりながらケータイの画面で確認した。
さすがに心細くて、最後に亮平の顔を見たかった和紗は、そのメッセージに落胆して、ちょっと泣いた。亮平にとってはよくある海外への渡航で、なんてことはないのかもしれないが、和紗にとっては、大事件だ。出発くらい見送ってほしかった。
これが、最後になるだろう・・・・・・。和紗は、そう思った。
亮平とは、はっきり別れられなかったけれど、物理的に距離を開ければ、きっと離れてしまうだろう。それは、2人にとって、きっと良いことなのだ。
自分から手を放すには、和紗はまだ亮平のことを好きでいすぎたから。