とくに、野心に満ちた若い男だったら。
和紗は、何度も繰り返されるドタキャンに、ほとほとうんざりしていた。亮平はまるで、カーニバルの熱狂に浮かされている道化師のようだ。
あれほど冷静沈着で、歳より落ち着いて見えた亮平が。和紗の好きだった、静謐な湖のようだった亮平が。いまでは、世俗に暴かれ、狂乱し、食い散らかされてしまった。
和紗は、虚しさを覚えるとともに、自分の中に沸き起こる亮平への嫌悪感に戸惑っていた。まだ、亮平のことは、好きだ。
誰よりも好きだと思う。
女性たちに囲まれ、なれなれしく触れられているのかと思うと、虫唾が走るほど嫌だと思う。それは、まだ亮平を愛している証拠だと思った。
亮平と離れようと決めたとき、和紗は社会人3年目になっていた。
何度も何度も別れ話を切り出そうとしたけれど、実際に亮平と顔を合わせ、昔から変わらない人懐こい笑顔を向けられると、どうしても言い出すことができなかった。合コンは相変わらず止むことはなかったし、時差をものともせずやり取りする苛烈な職場で、忙しさはひどくなる一方だった。化粧品などのプロダクトデザインを手掛ける小さなデザイン事務所に入社した和紗と亮平との間には、もはや埋めようのない溝が広がっていた。