「別れたら?」
夏花は、その日、2回目のセリフを祐二に告げた。
こういうのは、ためらってはダメだし、弱気になってもダメ。夏花はにっこり微笑む。祐二は、吸い込まれるように、夏花の笑顔に見入る。
「そ、そうだな・・・・・・」
この男にしては珍しくもごもごした口調で、こう続けた。
「もしも、夏花ちゃんが、俺と付き合ってくれるなら・・・・・・」
夏花は、そんなずるい言い方をする男に、心の中でため息を漏らす。
■彼女持ちの男
往生際が悪い。エリートコースを歩いて来た男って、大体そう。
自分のことを守る場所にいて、そこから投げ矢でも打つように、好意を投げてよこす。
何が何でも、傷つきたくないのだ。自分が振られるなんて考えたくない。だから、安全な場所でばかり、恋をしようとする。
でも、夏花は、そういう男には慣れっこだ。だいたい、今までの男も、付き合っている彼女がいなかった試しがない。いい歳したスペックの高い男は、つねに売り手市場なものだ。
だからこんな風に、自分の立場を守ったまま、安全な恋愛しようとする。
万が一にもプライドが傷つかないように。
私のこと、好きなくせに・・・・・・。