でも、傷ついた心は、そう簡単には癒えなかった。何度も何度も、彼を思い返し、自分の言葉を反芻し、頭をかきむしった。
そして、消せない過ちに歯ぎしりした。この自分の、完全な敗北に。そうだ、これは彼女の作戦。巧妙な復讐だったのだ。そう気づいたのは、しばらく苦しみ抜いた後のことだった。ふっと天から降ってくるように、彼女の意図が見えたような気がした。
あれ以来、彼女がいる男を好きになるのは、控えている。別に、自信がないからではない。ただ、わかったのだ。
彼女がいる男を好きになるのは、向こう側に彼女がいるから。その女と競って勝ち取るのが楽しいから。でも、向こう側の女にしてやられることもある。自分は、男を挟んで、向こう側の女と恋愛ゲームをしているだけだったのだと。
祐二のこともそう。
祐二がそこまで好きだったわけではない。なのに、いまでも胸が痛むほど執着してしまうのは、たぶん、向こう側の彼女に完敗したから。その悔しさのためなのだ。
夏花は、自分のことを追いかけるように、スマホに入って来たパーティー出席者の男のメッセージを見て、苦笑した。
また、彼女持ち。
彼女持ちのほうが、案外簡単に引っかかる。