SNSでは埋められない孤独や、仕事に対する不安を抱える男女が、葛藤しながらも過去を受け入れ前進する姿を描く映画『パリのどこかで、あなたと』が、12月11日(金)より日本公開。この度、公開に先駆けて、本作の監督セドリック・クラピッシュと主演のアナ・ジラルドが、舞台となるパリや演じた役柄についてインタビューで明かした。本作は、パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしている30歳のメラニーとレミー、不器用な男女の出会いを描くフレンチ・ラブストーリー。メラニーは元恋人との恋愛を引きずりながらも仕事に追われる日々を過ごし、一方、レミーは同僚が解雇されるも自分だけ昇進することへの罪悪感とストレスを抱えていた。その影響からメラニーは過眠症に、レミーは不眠症に苦しむ日々が続き、それぞれセラピーに通い始める。都会の喧騒の中で、同じ電車に乗り、同じ店で買い物をして、同じように孤独を埋められない2人は、道ですれ違うことはあっても知り合うことはない。そんな2人の人生が交わることはあるのか、その出会いは2人の人生を変えるものとなるのか…というのが本作のあらすじ。『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグとなった2人。“都会に暮らす大人”たちが抱える悩みや寂しさを、丁寧に映し出していく本作でアナが演じているのは、がんの免疫治療の研究者として働く傍ら、プライベートではマッチングアプリで一夜限りの恋を繰り返し、ありのままの自分をさらけ出すことができずに悩む女性メラニーだ。またレミーは、日本でも注目度上昇中のフランソワ・シヴィルが演じている。――メラニーに共感できたところはありますか?自分とは違うと感じたところはありますか?アナ:最初は自分とは全然違うと思っていました。人生に対する態度が私とは真逆だったので。ただ、次第に好きになってきて、なんというか、劇中のように彼女を許せるようになったとでも言うのでしょうか、弱点を強みに転じることを学びました。撮影中に友人たちと役についてストーリーについて話したんですが、彼らの中でもメラニーと同じような態度や反応、自分で自分を苦しめるような悩みを抱えている人が多かったんです。セリフが自分の中に少しずつ染み入って、作品が公開された1年ほど後になって、やっと映画で語られていたこと、起こったこと全てを分かった気がします。友人たちにも「この映画を観て欲しい。もしその時メッセージがわからなくても、とばさずに観て欲しい。あなたの中に残って、そのうち意味に気づくから」と言いました。作品の中で選ばれている言葉はとても強いパワーを持っているから。――『おかえり、ブルゴーニュへ』以来のタッグ。また一緒に仕事をされてみて、どうでしたか?クラピッシュ監督:また一緒に仕事ができて嬉しかったです。映画を一緒に作ったメンバーは、バカンスを共に過ごしたグループや小さなファミリーみたいなものなので、離れると寂しいですよね。アナとは家も近いし、友達だから、その後もプライベートで会っていますけど、仕事で会うのはまた違う喜びですよね。フランソワとアナとまた働きたいと思ったのは、職業に対しての構え方、考え方が似ているからだと思います。アナ:私たちは自分の仕事、映画への強い愛を持っていて、その愛をスクリーンに映し出そうとベストを尽くします。芸術的で、クリエイティブな仕事だということを意識していますし、仕事を遂行するには真面目にやらないといけませんが、そもそも映画は人生、人々、人間について語っているので、そんなに上から物事を見る必要はなくて、一緒に笑うこと、よい雰囲気で仕事することがとても重要なんです。「セドリック・クラピッシュ監督との仕事はどう?」とよく訊かれます。映画業界の人はみんな、セドリックの作品はそういうユーモアのある、家族みたいな雰囲気で作っているという噂を聞いていて、フランス映画界のレジェンドみたいになっています(笑)――撮影中の印象的だったエピソード、撮影現場の雰囲気について教えてください。アナ:たくさんありますが、アパート全部が大きなスタジオの中にあったことですね。アパートのインテリアも細部まですごくよくできていて、ペンキや質感も本当のアパートのようで。思わず窓を開けてバルコニーで外の空気を吸いたくなるような。実際は開けてもスタジオの中なんですけど(笑)あとは『おかえり、ブルゴーニュへ』でもしらふと酔っ払いの間を演じましたが、今回は泥酔したメラニーを演じて、ああいう状態の演技を追求するのはとても面白かったです。クラピッシュ監督:スタジオに関しては色々ありますね。パリの典型的なアパートをスタジオに再現しましたが、メラニーのアパートは、インスタグラムで見つけたブロガーの写真を沢山ミックスしたインテリアで、若い女性の理想のアパートを作り上げたんです。あまりに理想的すぎて、アパートの部屋に入ると皆出たがらず、もう出てくださいと言わないといけなくて、ベッドルームはみんな本当に気に入ってしまって(笑)。なので現場の雰囲気はとても良かったです。スタジオでの撮影ならではのおかしな点もあって。例えばメラニーが妹に手を振るシーンは、妹の乗った列車がアパートの前を通過して行くんですが、スタジオなので列車の代わりにスタッフが前を歩いて横切っていて、それを見ながらアナが手を振るんです。シリアスな演技をしないといけないシーンなのに、みんな大笑いしそうになってました(笑)――本作の舞台、パリとはどんな街ですか?クラピッシュ監督:パリは変化し続ける街で、そこが好きです。パリの「変化」には2つあります。パリは色んなカルティエ、地区がある都市で、東京も似たところがありますが、銀座、表参道、渋谷、みんな違いますよね。パリも、サン=ジェルマン、モンパルナス、モンマルトル、アナや私が住んでいる11区も、それぞれ別の都市かというくらい、全く異なります。そういうパリの中での変化が好きです。私が16区やシャンゼリゼに行けば、うちの近所とは別の国に行くくらい違って、旅しているような気分です。もう一つの変化は時間によるものです。変わらない部分は心地よいですが、それでも街は変わっていきます。ルーブル美術館やオスマン様式の建物などずっとそこにある建築物とは裏腹に、人々の生活は変化していきます。日本もそうですが、パリには優れた伝統や長い歴史があり、同時に力強い現代性もあります。多くの人はその2つは相対するものだと思っていますが、実は共存します。例えばファッションウィークのようなモードの世界では、優れた過去、長い歴史がありますが、同時に今を表現するクリエイティビティもあり、著名デザイナーも常に日常に変化をもたらしています。シャネルやディオールなどの老舗ブランド、フランスの若手のクリエイターも、モードの歴史をリバイバルさせることもあれば、現代性のあるものを創り出すこともあります。私はパリのこういうところが好きなんです。力強い歴史があり、力強い現代がある、矛盾するようにも思える反対のものが共存する街なんです。アナ:セドリックの後に話すのは難しいですね(笑)。私はパリで生まれて、8回引っ越したので、右岸にも左岸にも、色んな区に住みました。この間、街を歩いていたら、ちょうど陽が落ちるところで、セーヌ川がオレンジ色に染まっていて。ポンデザール橋を渡っていた人々も橋の途中で足を止めていました。見ごとな空の色に、心地良い気温、カモメが空を飛んでいて。今は通りも人が少ないので、街は芸術品のようで、荘厳でした。長い歴史で多くの出来事を見てきた永遠の街、世界一美しい街に住んでいるんだと、ふと思い出した瞬間でした。多くのパリジャンはその素晴らしさを忘れてしまっているんですけど。――マッチングアプリで出会い、デートをするシーンが登場しますが、コロナ禍で人との関わり方はさらに変化していくと考えますか?また、監督自身の作品にも、コロナ禍の変化は影響を与えると考えますか?クラピッシュ監督:もちろん影響はあると思います。世の中の全ての出来事が影響します。私たちは今、全世界的に危機に直面していて、それはもちろん私たちの行動を変えると思います。怖いし、奇妙ですよね。例えば、フランスで6か月前に生まれた子どもは、マスクをしている人しか目にしていないんです。人の顔の半分しか見えなくて、そもそも人ともあまり会いもしないし、みんな人に触ることを避けるんですから。子どもたちにどんな影響を及ぼすのかわからないですよね。今となっては十人くらいがハグしあっているシーンなんて、「なんだこれ、変なの!」と思いますよね。カップルがキスするシーンだって、意味が違ってきます。そもそも人間にとって他者との接触は怖いものなのに、この病気でその恐怖は更に増大したわけです。不安ですよね。そういうわけで、私はむしろみんながハグする映画を作りたいんです。マスクなしで!(笑)1月に次作の撮影を開始しますが、通りのシーンでみんなにマスクをさせるかどうか考えて、マスクなしにしました。なので、エキストラも含めて通りの人たち全員、マスクなしです。ある意味、時代物みたいですよね、コロナの前と同じようにするので。これは演出において、とても重要な選択でした。コロナの話をしないし見せない、ということですから。私にとって、マスクをして人を遠ざけるということは、映像の概念を邪魔する、非人間的なものだと思ったのです。――公開を楽しみにしている日本のファンへメッセージをお願いします。クラピッシュ監督:この映画は、パリを旅行するのにちょうどよい方法です。今、なかなか本当の旅行は大変ですからね(笑)よくこれはロマンチックコメディかと訊かれるんですが、普通とは違ったタイプのロマンチックコメディだと思います。ロマンチックコメディというと、最初は仲の悪い2人が最後はくっついたりしますが、この映画ではラブストーリーをいつもとは全く違う方法で描いています。なので、日本の方には、パリが舞台、普通と違うラブストーリー、という点で気に入ってもらえるのではと思います。アナ:パリの物語ですが、東京も大都会なのでこういう関係はありうると思います。「近所の人が自分の探している男性じゃないかしら?」と。(cinemacafe.net)■関連作品:パリのどこかで、あなたと 2020年12月11日より全国にて公開© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
2020年12月10日現代フランス映画界を代表するセドリック・クラピッシュ監督最新作『パリのどこかで、あなたと』で主演を務めるフランソワ・シヴィルとアナ・ジラルド、クラピッシュ監督のコメントが到着した。パリの隣り合うアパートメントでひとり暮らしをしているレミーとメラニー役で今回W主演を務めたフランソワとアナは、クラピッシュ監督の『おかえり、ブルゴーニュへ』で姉弟役を演じた経験を持つ。再度クラピッシュ監督作品へ出演が決定したときの心境について、日本でも注目度上昇中のフランソワは「前作の撮影が終了した際、彼の作品であれば何でもやると彼に伝えていたので、僕に電話をかけてきてくれたとき本当に嬉しかったです」とふり返る。フランソワは、仕事に悩みやストレスを抱えながらも、前向きに生きようともがくひたむきな男性レミーを演じているが、「レミーのような豊かなキャラクターを提案してくれるのは俳優としてすごく喜ばしいことだと思いました」と話している。同じく前作からの再タッグとなったアナは、マッチングアプリで一夜限りの恋を繰り返し、ありのままの自分をさらけ出すことができずに悩む女性メラニーを演じた。アナは「セドリックにこの役をもらえるかずっと不安でした」と言いつつも、「でもどこかで、この役は私が演じるに違いないとも思っていた気もします」と出演を熱望していたという。そんな2人についてクラピッシュ監督は「レミーについては、おとなしい性格のキャラクターのため、はじめは明るくて健康的なイメージのあるフランソワにするのか悩んでいました」と明かしたが、「前作で彼の演技を見た際には、彼しかいないと感じました。反対にメラニーは、最初からアナ以外の他の人を考えたことはありません。本作は2人のために書かれているようなものです」と起用理由について説明した。パリに暮らす不器用な男女の出会いを描いた本作。パリで生まれ育ったフランソワは「まるで僕が毎日見ていたものを彼が撮影したようです。少しユニークで、リアルで、多くのパリジャンが慣れ親しんだ景色が映し出されていました」とクラピッシュ監督が映すパリの印象を語る。そして「現代のパリを描きたかった」と言うクラピッシュ監督は、「長い間パリを舞台にした作品を撮っていませんでしたが、その間に大きく変わっていました。私の知らない新しいパリを映し出したいと思いました」と思いを述べている。『パリのどこかで、あなたと』は12月11日(金)よりEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開。(cinemacafe.net)■関連作品:パリのどこかで、あなたと 2020年12月11日より全国にて公開© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
2020年11月18日人気急上昇中のフランス俳優アナ・ジラルド&フランソワ・シヴィルが共演、『猫が行方不明』『スパニッシュ・アパートメント』などのセドリック・クラピッシュが監督する最新作『パリのどこかで、あなたと』から、本予告が解禁された。解禁された本予告では、同じアパートメントの隣人ながらも知り合うこともなく、過去の恋愛を引きずり心の穴を埋められないメラニー(アナ・ジラルド)と、仕事のストレスを抱えて眠れないレミー(フランソワ・シヴィル)がそれぞれの悩みと向き合い、不器用に生きる姿が映し出されている。「人に話せる特別な事が僕にはない」と落ち込むレミーと、「一年前に彼と別れたの。私って重たいみたい」と目に涙を浮かべるメラニー。新しい出会いを求めてみたり、誰かの特別な存在になろうと努力してみたりと、何とか寂しさを紛らわそうとする2人だが、なかなか上手くはいかない。同じような孤独を抱える2人が、人との繋がりを求め葛藤する姿が描き出されている本映像。2人を結びつける猫の存在と、それぞれが自分と向き合い、一歩踏み出す姿に期待せずにはいられないものとなっている。『パリのどこかで、あなたと』は12月11日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:パリのどこかで、あなたと 2020年12月11日より全国にて公開© 2019 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURE - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA
2020年10月14日『スパニッシュ・アパートメント』から『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』までの“青春三部作”や、『おかえり、ブルゴーニュへ』など、現代フランス映画界を代表するセドリック・クラピッシュ監督の最新作『パリのどこかで、あなたと』(原題:Deux Moi)が12月11日(金)より公開決定、日本版ポスターと特報映像が解禁された。本作は、30歳という人生の節目の年齢を迎えた男女がSNSでは埋められない孤独や、仕事に対する不安を抱え、葛藤しながらも過去を受け入れ前進する姿を描いた物語。“都会に暮らす大人”たちが抱える悩みや寂しさを、丁寧に映し出していく。主演を務めるのは、クラピッシュ監督の『おかえり、ブルゴーニュへ』にも出演し、フランスの映画・テレビ・演劇界で活躍するアナ・ジラルド。がんの免疫治療の研究者として働く傍ら、プライベートではマッチングアプリで一夜限りの恋を繰り返し、ありのままの自分をさらけ出すことができずに悩む女性メラニーを繊細に表現。さらに、第72回カンヌ国際映画祭で将来の活躍が期待される若手俳優に贈られるショパール・トロフィーを受賞し、『ラブ・セカンド・サイトはじまりは初恋のおわりから』や『私の知らないわたしの素顔』『ウルフズ・コール』など、フランスのみならず、日本でも注目度上昇中のフランソワ・シヴィルが、仕事に悩みやストレスを抱えながらも前向きに生きようともがくひたむきな男性レミーを演じている。この度初公開となったポスターでは、パリの隣り合うアパートメントで暮らすメラニー(アナ・ジラルド)とレミー(フランソワ・シヴィル)の2人がそれぞれ儚げな表情を浮かべ、物思いにふける様子が切り取られている。さらに特報映像では、隣り合うアパートメントで暮らしながらもまだ巡り合っていない2人のシーンから始まる。過去の恋愛を引きずり心の穴を埋められないメラニーと、内気で恋愛に不器用なレミー。それぞれが、マッチングアプリを使ってみたり、気になる同僚とデートしてみたりと、悩みながらも“人との繋がり”を求めている様子がうかがえる映像となっている。『パリのどこかで、あなたと』は12月11日(金)よりYEBISU GARDEN CINEMA、新宿シネマカリテほか全国にて順次公開。(text:cinemacafe.net)
2020年09月29日こんにちは。アートディレクターの諸戸佑美です。ボジョレー・ヌーボーも解禁となりワインを楽しむ機会の多い季節ですね。【シネマの時間】第47回は、フランス・ブルゴーニュのワイナリーを舞台に、10年ぶりに再開した3兄弟の人生を描いた珠玉のヒューマンドラマ。映画『おかえり、ブルゴーニュへ』をお送りします!『スパニッシュ・アパートメント』(01)、『ロシアン・ドールズ』(05)、『ニューヨークの巴里夫』(13)からなる〝青春三部作″の完結から4年。現代フランスを代表する人気監督セドリック・クラピッシュによる話題の最新作。四季折々の美しい自然を背景に、ブドウの栽培や収穫、破砕や発酵〜熟成といった一連のワイン醸造過程も見どころで、3兄弟のワインへの情熱も感動的です。仏原題『Ce qui nous lie』の意味は、「私たちを結ぶもの」。映画を観終わった後には、芳醇な余韻に浸りながらフランス・ブルゴーニュへ思いを馳せ、自分のルーツや子どもの頃のことを語り合ったり、ワインをとにかく呑みたくなる映画です。是非、映画館でお楽しみください!11月17日(土)よりYEBISU GARDEN CINEMAほか全国ロードショー!■映画『おかえり、ブルゴーニュへ』あらすじー故郷フランス・ブルゴーニュのワイナリーを継ぐため、10年ぶりに再会した3兄弟のヒューマンドラマ。ワインの世界的名産地フランス・ブルゴーニュにあるドメーヌの長男ジャン(ピオ・マルマイ)は、10年前、世界を旅するために故郷を飛び出し、家族のもとを去りました。その間、家族とは音信不通でしたが、父親が末期の状態であることを知り、10年ぶりに故郷ブルゴーニュへと戻ってきます。家業を受け継ぐ妹のジュリエット(アナ・ジラルド)と、別のドメーヌの婿養子となった弟のジェレミー(フランソワ・シビル)との久々の再会。しかし、回復することなく父親は亡くなってしまいます。残されたブドウ畑や自宅の相続をめぐってさまざまな課題が出てくるなか、父親が亡くなってから初めてのブドウの収穫時期を迎えます。3人は自分たちなりのワインを作り出そうと協力し合いますが、一方で、それぞれが互いには打ち明けられない悩みや問題を抱えていました……。10年ぶりに故郷へ戻った長男ジャンは、妻との離婚問題を抱えており、家業を次ぐ長女ジュリエットはワイン作りの才能を持ちながらも働き方に悩んでいました。また、末っ子のジェレミーは別のドメーヌの婿養子となり舅問題にぶつかっています。見渡すかぎりの葡萄畑、遮りもののないどこまでも広がる大空、風にそよぐ木々。ブドウ栽培〜ブドウの収穫〜破砕や発酵〜熟成までのワイン醸造過程と、ブルゴーニュの美しい四季を丸1年かけてじっくりと映し出した本作。あふれる自然とめぐるめく季節の中で10年ぶりに再会した3兄弟のワイン造りの情熱と、それぞれが迎える人生の岐路を、共感と郷愁を持って情感たっぷりに丁寧に重ね合わせて描いています。■ブルゴーニュワインについての豆知識ブルゴーニュは、フランス南西部のボルドーと並び賞される、フランス東部の内陸に広がる世界で最も有名なワイン産地です。比較的冷涼な大陸性気候で、乾燥しがちであること、そして1日の寒暖差があることから、ピノ・ノワールやシャルドネなどのブドウ品種の栽培に適し、2015年にはユネスコの世界文化遺産に登録されました。世界的に有名な高級ワインとして知られるロマネ・コンティなどの魅力的な赤ワインを生産するほか、白ワインの女王・シャルドネの故郷であり、シャブリで有名な地域です。ワインの醸造における違いは、ボルドーが数種類のブドウ品種をブレンドするのに対して、ブルゴーニュでは単一品種で醸造する点です。赤ワインなら主に黒く紫身を帯びた果皮が特徴的なピノ・ノワール、白ワインなら果皮が緑色の白ワイン用ブドウ品種の代表格シャルドネが用いられます。最高級ワインだけでなく手頃な価格のものもあり、日本でも人気のボジョレー・ヌーボーもまた、ブルゴーニュ地方のワインです。■ドメーヌとは?映画では、ドメーヌであるワイナリーを継ぐため、10年ぶりに再会した3兄弟の物語が描かれています。ドメーヌとは、ブルゴーニュ地方のワイン生産者を表す用語。自分のブドウ畑を所有し、栽培からワインの醸造までをすべて行うワイン生産者のことです。そのため、一般的に家族経営の小中規模のワイナリーが中心です。自らの畑のテロワール(土壌)を知り尽くしているため、丁寧にブドウを栽培し、それぞれの土地の影響を受けた味わいの個性的なワインを造ります。ただし、その年のブドウの良し悪しによってはワインの品質が変わりますし、醸造技術も反映されるため、ワインの出来にはドメーヌ間で優劣の差があります。有名なドメーヌとして挙げられるのは、ロマネ・コンティ社です。なお、ブルゴーニュワインの出自は、主にブドウの仕入れ方法の違いにより「ドメーヌ」と「ネゴシアン」のふたつに分かれます。ネゴシアンとは、ワイン業者という意味で、ブドウ農家から買い入れたブドウやワインを使用して、ワインの醸造・熟成・販売を手がける酒商のことです。映画『おかえり、ブルゴーニュへ』作品紹介映画『おかえり、ブルゴーニュへ』は、11月17日(土)よりヒューマントラストシネマ有楽町、 YE BISU GARDEN CINEMAほか全国順次ロードショー!公式サイト:原題:Ce qui nous lie監督:セドリック・クラピッシュ脚本:セドリック・クラピッシュ、サンティアゴ・アミゴレーナ撮影:アレクシ・カビルシーヌ美術:マリー・シェミナル衣装:アン・ショット編集:アン=ソフィー・ビオン音楽:ロイク・デュリー、クリストフ・ディスコ・ミンク日本語字幕:加藤リツ子製作年:2017年製作国:フランス上映時間:113分/カラー映倫区分:PG12後援:ユニフランス配給:キノフィルムズ/木下グループ©2016 - CE QUI ME MEUT - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA映画『おかえり、ブルゴーニュへ』キャストピオ・マルマイ=ジャンアナ・ジラルド=ジュリエットフランソワ・シビル=ジェレミージャン・マルク・ルロ=マルセルマリア・バルベリデ=アリシア【シネマの時間】アートディレクション・編集・絵・文=諸戸佑美©︎YUMIMOROTO
2018年11月14日ナチスドイツ支配下のフランスからスイスの国境を目指し、勇気の旅を続けた少女の実話から生まれたフランス・ベルギー合作映画『FANNY’S JOURNEY』が、邦題を『少女ファニーと運命の旅』として8月11日(金)より公開されることが決定した。1943年、ナチスドイツの脅威はヨーロッパ中に広がり、フランスもその支配下にあった。勝ち気さを内に秘めた13歳のユダヤ人の少女ファニーは幼い2人の妹と共に、協力者たちが秘かに運営する児童施設に匿われていた。ファニーの楽しみは、検閲の目をくぐって届く母からの手紙と、夜中にベッドの中で父からもらったカメラのファインダーを覗いて楽しかった日々を思い出すこと。だが、ある日、心ない密告者の通報により、子どもたちは別の協力者の施設に移らなくてはならなくなる。やっと落ち着いたと思ったのも束の間、その施設にもナチスの手が…。ファニーたちは列車を使って移動するが、ドイツ兵による厳しい取り締まりのせいで引率者とはぐれてしまう。見知らぬ駅で取り残された9人の子どもたち。いつの間にか彼らのリーダー役となったファニーは、バラバラになりかける子どもたちの心を1つにし、いくつもの窮地を勇気と知恵で乗り越え、ひたすらスイスの国境を目指す。しかし、追っ手は彼らのすぐそばまで迫っていた――。ナチスの追跡を逃れ、フランスからスイスの国境を目指す13歳の少女の決してあきらめない旅を描く本作は、ファニー・ベン=アミの自伝に基づく実話。純粋で前向きな子どもたちの姿が、観る者の心を打つ勇気と感動の物語だ。「フランス映画祭2017」で来日する予定の映画監督ジャック・ドワイヨンを父に持ち、女優で歌手のルー・ドワイヨンが異母姉妹、夫は『スパニッシュ・アパートメント』など青春3部作で知られるセドリック・クラピッシュという女性監督ローラ・ドワイヨンがメガホンをとった。キャストには、レオニー・スーショー、セシル・ドゥ・フランス、ステファン・ドゥ・グルート、ライアン・ブロディらが名を連ねている。『少女ファニーと運命の旅』は8月11日(金)よりTOHOシネマズシャンテほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2017年05月18日映画『ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』が2016年12月23日(金・祝)、Bunkamuraル・シネマ他にて全国公開される。バンジャマン・ミルピエは、長年に渡り世界最高峰の芸術を提供し続けてきたバレエの殿堂“パリ・オペラ座”の芸術監督に、史上最年少で就任した天才振付師。本作は、彼の異端とも言える伝統に対する挑戦と、オペラ座公式プロデュース作品でしか成し得ないバックステージを圧巻の映像美で描き出すドキュメンタリーだ。名作『ブラック・スワン』の振付師であり、女優ナタリー・ポートマンの夫として知られる稀代のダンサーであるミルピエ。20年近く芸術監督を務めたブリジット・ルフェーヴルの退任後、ニコラ・ル・リッシュ、マニュエル・ルグリら錚々たる有力候補を押しのけ、史上最年少でパリ・オペラ座の芸術監督に大抜擢された彼は、就任後わずか1年半ほどでパリ・オペラ座の芸術監督を辞任することに。350年以上の歴史と伝統を誇る名門に挑み、次々と革新をもたらしていた彼の身に一体何があったのか、なぜパリ・オペラ座はミルピエを起用したのか。伝統と革新が激しくぶつかり、歴史に新たなページが刻まれる瞬間を捉えた作品だ。映画では、ルピエの芸術監督として初の仕事であり、彼が歴史と伝統に対峙しながら挑む演目『Clear, Loud, Bright, Forward』のバックヤード、そして完成までの道程を紹介。ルー・リードやビョークの『メダラ』『拘束のドローイング』に参加したピアニストのニコ・マーリーが音楽を担当。気鋭ファッションデザイナー、イリス・ヴァン・ヘルぺン(Iris Van Herpen)が衣装を手がけ、レオノール・ボーラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェなど総勢24名、次世代のスターたちが出演していることも注目だ。また本作の上映を記念し、パリ・オペラ座の新芸術監督に就任したオーレリ・デュポンの伝説の引退公演『マノン』の限定上映が決定。2016年12月10日(土)から12月22日(木)まで、Bunkamura ル・シネマで公開される。彼女の引退公演は2015年5月18日にパリ・オペラ座ガルニエ宮で行われ、映画界や政界などのセレブを含む総計2000人を超えるファンが駆けつけ、これまでの彼女のダンサーとしての努力と経験を基盤とする円熟した踊りに酔いしれる一夜に。20世紀を代表する振付家の一人、ケネス・マクミランが英国ロイヤル・バレエ団の芸術監督/主席振付師時代に発表した文学バレエの傑作である『マノン』を、錚々たるキャストで披露している。【映画情報】ミルピエ ~パリ・オペラ座に挑んだ男~原題:Relève公開時期:2016年12月23日(金・祝)Bunkamuraル・シネマ他で全国公開監督:ティエリー・デメジエール/アルバン・トゥルレー音楽:ニコ・マーリー衣装:イリス・ヴァン・ヘルペン出演:バンジャマン・ミルピエ、レオノール・ボーラック、ユーゴ・マルシャン、ジェルマン・ルーヴェ、アクセル・イーボほか2015年/フランス/110分©FALABRACKS,OPERA NATIONAL DE PARIS,UPSIDE DISTRIBUTION,BLUEMIND,2016『ミルピエ~パリ・オペラ座に挑んだ男~』公開直前記念オーレリ・デュポン引退公演『マノン』限定上映期間:2016年12月10日(土)~12月16日(金) 連日19:10~、12月17日(土)~12月22日(木) 連日12:25~会場:Bunkamura ル・シネマ住所:東京都渋谷区道玄坂2-24-1 Bunkamura 6FTEL:03-3477-9264料金:2,500円(税込)映像監督: セドリック・クラピッシュ出演:オーレリ・デュポン、ロベルト・ボッレ、ステファン・ビュリョン、アリス・ルナヴァン、バンジャマン・ペッシュ、カール・パケットほか2015年/フランス/135分©Opéra National de Paris, la Belle Télé and France Télévisions 2015
2016年12月04日パリ発シチリア産オリーブオイルとシチリア食材の専門店「セドリック・カサノヴァ」が、9月1日(木)に外苑前駅より徒歩6分、 表参道駅より7分の通称「まい泉通り」沿いにオープンする。「セドリック・カサノヴァ」は、 パリ10区で多くのシェフ、 グルメたちに支持されているシチリア産オリーブオイルとシチリア食材の専門店「ラ・テット・ダン・レゾリーヴ」の東京店。「ラ・テット・ダン・レ・ゾリーヴ」は、“頭はすっかりオリーブ漬け“という意味で、元シルクドソレイユの綱渡り芸人というユニークな経歴を持つセドリック・カサノヴァが、 オリーブのことばかり考えているという想いを込めて、逆さ吊りになってたくさんのオリーブの中に頭を突っ込んでいるユニークでインパクトのあるモチーフをショップロゴとして表現している。同店のセドリック・カサノヴァが手掛けるエクストラヴァージンオリーブオイルは、 一般に数種類をブレンドされるオリーブオイルに対して、「農家×オリーブ品種」、コーヒーやカカオのシングルオリジンのように「単一畑×単一品種」が基本。 60種類ある中から、 東京店のために個性も様々なオイルを8種類セレクトする。ビアンコリーラ、 チェラソーラ、 ピリクダーラ、 ノッチェラーラなどシチリア地元品種を畑違いで紹介するなど、今や日本でもポピュラーな調味料のひとつとなったオリーブオイルの奥深い魅力を知れる一店となりそうだ。オリーブオイルのほかは、パリのグルメも注目する小規模な農家が手掛ける農産物、 伝統的な手法で作られるリノーザ島のケイパー、 野生のフェンネルシード、 バジルやオレガノの花のブーケ、 マグロのブレサオーラなどの100%シチリア産の食材を扱っている。また予約制ターブル・ドット(プライベートテーブルディナー)「ターブル・ユニーク」が設けられており、 一晩8名限定、 店内のオリーブオイルとシチリア食材を使ったシンプルな小皿料理のコースを目の前で仕上げて提供する。シチリア食材を家庭で気軽に使う時のさまざまなアイデアをキャッチできる機会ともなる。料金はひとり3,240円(税込)、 ドリンク別。営業時間は、ショップ12:00~19:00。「ターブルユニーク」は18:00~22:30。不定休。(text:cinemacafe.net)
2016年08月28日映画『スター・ウォーズ』に登場するキャラクターや乗り物を使った写真作品を発表するフランス人フォトグラファー、セドリック・デルソーの日本初となる写真展「ダーク・レンズ(DARK LENS)」が、11月20日から2月11日まで東京・渋谷のディーゼルアートギャラリー(DIESEL ART GALLERY)にて開催される。「ダーク・レンズ」は、廃墟や開発途中の地などの荒涼としたドバイの風景に『スター・ウォーズ』のキャラクターや乗り物、兵器を融合させた写真シリーズ。作品の中で、AT-ATは霧の中を徘徊し、スピーダーバイクは荒涼とした都市を疾走、ミレニアム・ファルコンは人間味も生活感もないドバイのビルの建設現場に着陸する。慣れ親しんだ、しかし相容れないふたつの要素を組み合わせることによって、奇妙なダブル・デジャヴュ”を体感させることに成功している。同展では、『スター・ウォーズ』の監督ジョージ・ルーカスをして「『スター・ウォーズ』に登場するキャラクターや乗り物を、荒涼とした都市的・産業的ーだが紛れもなく地球上の風景と融合させるデルソーの表現手法は、見事としか言いようがない」とも言わしめた「ダーク・レンズ」シリーズから約14作品が展示される。その他、今回のために制作された映像作品の上映や、関連書籍の販売なども実施。11月21日の16時から18時には、アーティストによるサイン会も行われる予定だ。【イベント情報】「ダーク・レンズ」会場:ディーゼルアートギャラリー住所:東京都渋谷区渋谷1-23-16 cocoti 地下1階会期:11月20日から2月11日時間:11:30~21:00入場無料休館日:不定休
2015年11月10日12月11日(木)、両国の国技館はいつもとはひと味違う華やぎに包まれていました。それもそのはず、この日は世界中のセレブリティに愛されているフランスのオートクチュールメゾン、クリスチャン・ディオールが「エスプリ ディオール TOKYO 2015」を開催。アーティスティックディレクターのラフ・シモンズが手掛けるブランド「ディオール」が、話題の中心となること必至の新作コレクションを過去最大規模で発表するとあって、世界中からゲストが駆けつけました。“エスプリ ディオール”とは、今年から毎年この時期に発表されていく新しくうまれたコレクションのこと。しかも、今回の東京が最初の“エスプリ ディオール”発信地として選ばれ、世界的なお披露目の場となって、61体の最新コレクションが発表されるとあって、熱い視線が注がれたのです。そんな話題のコレクションを見ようと、世界からセレブリティ、ブロガー、プレスが来日。ゲストの数は約1,600人にものぼりました。中には、パリから駆け付けたオドレイ・トトゥの姿も。セドリック・クラピッシュの新作『ニューヨークの巴里夫』では、主人公グザヴィエの元ガールフレンド、ちょっとアグレッシブで情緒不安定なマルティーヌを演じていましたが、この日は一転、ディオールを身に纏い、シックでパンツスタイルを披露。派手ではないのに、エレガントで華やかな大人の女性の落ち着きを表現していました。マルティーヌのちょっとコミカルな様子とは、全く違った素顔を見せてくれたオドレイ。オン&オフ・スクリーンでのファションや表情の違いを観ていると、彼女の役作りや演技力などが垣間見られて面白いですよね。また、この日会場に訪れたセレブリティ達は、オドレイ同様、いずれもディオールらしいエレガンスを体現。派手なアクセサリーやヘアスタイルで着飾るのではなく、あくまでもクリーン&タイトに自らの美を引き立てるスタイルで、ディオールの美学を追求していました。ホリデーシーズンが到来した今、彼女たちの着こなしを参考に、洗練されたパーティスタイルを完成させてみるのもいいかもしれませんね。そして、本コレクションの商品は秋冬物の前に2015年5月末から店頭に並ぶそう。こちらもお楽しみに!(text:June Makiguchi)
2014年12月30日セドリック・クラピッシュといえば、『百貨店大百科』や『青春シンドローム』『猫が行方不明』などで知られるフランスの名監督。その魅力は何と言っても、欠点はあるけれどとても人間的で魅力的な登場人物たちがみせる、ちょっととぼけた人間模様でしょう。人生において避けては通れない、さまざまな厄介ごともユーモアで包み込み、最後には温かな気持ちにさせるクラピッシュ節は最新作『ニューヨークの巴里夫』でも健在です。この作品は、映画ファンなら御存知の通り、監督の代表作のひとつ『スパニッシュ・アパートメント』、続く『ロシアン・ドールズ』の続編。イケているのかダメ男なのか微妙なのに、結構美女にモテてしまうパリジャン、グザヴィエの予測できない人生が、3作を通して描かれています。第一作目では大学生だったグザヴィエも、いまや40歳。最新作公開にあたり、クラピッシュ監督と一緒に、作品の魅力を探ってみることにしました。当初、シリーズ化を考えずに1作目を撮り始めたという監督。本作が成功した理由についてこう話しています。「なぜ成功するかを語るのはつねに難しい。でも僕がシリーズの最初から心がけてきたのは、現代の社会を率直に語ること。そして自分が思うことを語るのではなく、実際にそうであることを語ることなんだ。その結果、3作とも流動性がテーマになった。一作目ではスペインに行き、二作目はロシア、今回がニューヨーク。というのも今日、流動性というのは社会の大きなテーマだから。たとえば携帯、インターネット社会もそうだし、旅行もそう。以前に比べて職を替える人は多いし、現代では一回結婚したら終わりではなく離婚をするケースも増えている。だからこのテーマはとても現代的だと思うんだ」。親しみ深い魅力的なキャラクターについては、こんな秘密があるそう。「僕はリアリティから出発して、とてもリアルな事柄を用いながらストーリーを創造していくのが好きなんだ。キャラクターも可能な限りリアルにしたい。たとえばセシル・ド・フランス演じるレズビアンのキャラクターは子どもを持ちたいと望んでいるけれど、彼女のような人たちは増えている。実際に会ってリサーチしたし、ニューヨークに住んでいるフランス人にも何人か会ったよ」。このシリーズを“ライフワーク”だと話し、思い入れが強いという監督。グザヴィエという人物に自分を投影しているのでしょうか。「一部はね、でも完全にそうというわけではない。僕は彼よりはもう少しきちんとしているよ(笑)。でも、僕には別れたパートナーとの間に2人の子どもがいて、隔週ごとに一緒に暮らしている。そしていまのパートナーとの間に3人目の子どもがいる。だから子育ての複雑さなどはグザヴィエと通じるところがあるね」。主人公を演じるロマン・デュリスは、フランスを代表する大スターですが、そもそも美大生のときに路上で監督のスカウトがきっかけでこの世界に。『青春シンドローム』で俳優デビューを果たしたこともあり、監督とは盟友。何作も組んできただけでなく、いまやライフワークに欠かせない存在となっています。「彼は一作目のときは25歳、二作目は30歳。いまは40歳。そのあいだに自然に成熟してきたと思う。シリーズを通して、成熟とは、年を取るとはどういうことかを見つめるのは重要だった。ただロマンにとって、同じキャラクターでありながらその成熟の度合いを演じ分けるのは難しかったかもしれない。一作ごとに異なるものを付け足していかなければならなかったからね」。もしかすると、監督自身も作品を通し、撮影を通して、自らの成熟を感じていたのかもしれません。ニューヨークでの撮影は象徴的とも言えるでしょう。そこは監督がかつて映画を学んだ場所。その地に再び戻るのは、自らの成長を実感することだったのかもしれません。「ニューヨークには23~25歳まで居たから多くの思い出があって、再び訪れるのはとても胸を打つ経験だった。4歳になる末の息子を連れて行ったんだけど、ちょうど彼が行った幼稚園が、僕が通った学校の隣にあってね。まさに時を遡るような感覚だった。学生のときは何十年後かにまた来るなんて思いも寄らなかったから感慨深かった。もちろん、映画を学んだ土地で映画を撮ることもエモーショナルな経験だった。こうした時の流れはこの映画が物語ることとも共通する。それにニューヨークはとても刺激的な街だから、そこに影響されて、撮影自体もとても刺激的な体験になったね」。特に、激変する都市を舞台にするのは、パリのように変わらぬ街で生きる監督には意義深いものだったよう。「僕が意識的に心がけたのは、ワールド・トレード・センターの再建設など、変化する建築をフィルムに収めることだった。とくにニューヨークのような場所は、時代の変化によって街の様相も変わるからね。映画のなかでグザヴィエが建設中のビルを見ながら、“一度壊れたものは再構築が困難だ”と言うシーンがある。でも僕が言いたかったのは、確かに再建築は難しいけれど、それでも再び作られていくということ。9.11後のニューヨークと同じ。過去を忘れろというわけじゃないけれど、そして人生は続くのだということを言いたかったんだ」。そして、人生は続く…。そう聞くと気になるのは、『スパニッシュ・アパートメント』『ロシアン・ドールズ』と続いたこのシリーズが、今回の『ニューヨークの巴里夫』で本当に最終回になってしまうかということ。実は、監督は「分からない」と明言を避けています。「ただ続編を撮るとしてもまた10年後だろうね。そのことはもう少し年月が経ってから考えたい。そのときになって、まだ語るのに面白い題材があるかどうかを考えたいからね」。ファンとしては、自分と一緒に成長していくグザヴィエの今後が気になるところ。どうやら“完結”というわけでもなさそうで、続編の可能性はまだまだありそうですから、10年後に期待したいところです。(text:June Makiguchi)■関連作品:ニューヨークの巴里夫 2014年12月6日よりBunkamuraル・シネマほか全国にて公開(C) 2013 Ce Qui Me Meut Motion Picture - CN2 Productions - STUDIOCANAL - RTBF - France 2 Cinema
2014年12月18日イギリスで記録的大ヒットをした『ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー』が、ついに日本に上陸する。本作は、日本でも大ヒットしたスティーブン・ダルドリー監督作『リトル・ダンサー』のミュージカル版。バレエを通じて、父と子が愛を再確認する感動の物語だ。本作を始め、12月の公開作でひと際目立つのは、キム・ギドクやデヴィッド・フィンチャーなど、世界各国の有名監督たちが手がけた“家族”をテーマにした作品ばかり。良くも悪くも昼夜、生活を共にする家族。悩みを共有したり、安心を得られる一方で、“最も近くて最も遠い”存在に感じることもしばしば。一見、いかにも幸せそうに見える家庭が、実は周りの人には知られたくない問題を抱えているというのも、決して珍しいことではない。ひとつ屋根の下でも、日々ドラマは起きている…となれば、ミドルエイジを迎え、家族を持った監督たちの作品も、その描き方はさまざま。今回は、一見まったく異なるが、実は“家族”という共通のテーマを描いた4本の新作をご紹介。●『ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー』12月5日公開1984年、ストライキに揺れるイギリス北部の炭鉱の町。11歳の少年ビリーは、炭鉱夫の父と兄、祖母と暮らしている。偶然目にしたバレエに興味を持ったビリーは、父親に内緒でバレエを習い始める。彼の素質を見抜いたバレエ教師の指導を受け、ビリーは“ロイヤル・バレエで踊る”という夢を抱くように。息子の才能と夢を知った父は、一大決心をする――。監督は、日本でも大ヒットした映画『リトル・ダンサー』と同じ、イギリス出身のスティーブン・ダルドリー(54歳)。映画版は、ちょうど14年前の2000年9月29日にイギリスで劇場公開され、英国アカデミー賞を受賞した。2005年からはロンドンのウエスト・エンドで、舞台版の上演が開始。ダルドリー監督は、こちらの舞台版でも演出を務め、音楽監督はエルトン・ジョンが担当した。2008年にはブロードウェイに進出し、トニー賞を独占。2014年の現在もロンドン・ウエストエンドで観客を魅了し続けている。そして、今年の9月28日。これまでビリー役を演じてきた27名が全員が共演する、1日限定の夢のステージも実現した。その模様はライブ配信され、週末興行成績第1位を獲得という偉業を達成。その夢のステージこそが、今回日本に上陸した『ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー』なのだ。ダルドリー監督は「情緒的な作品だ。家族が絶望的だと思われる状況に立ち向かう物語で、それはどの文化や言語に置き換えても共通のテーマだと思う」と語っている。ありのままの思いをぶつけ、衝突する父と息子。でもそれは、誰よりもお互いを愛してるからこそゆえ。自分の心を理解してほしいから、真剣に、不器用に向き合うのだ。少年ビリーは、言葉では伝えられない思いを、体いっぱいで表現する。家に帰ったら、すぐに自分の家族を抱きしめたくなるような、ハートウォーミングな家族の物語の傑作は、ミュージカル版でも顕在だ。●『メビウス』12月6日公開ある日、夫の浮気を知った妻。彼女は嫉妬と怒りのあまり、夫の性器を切断しようとするが失敗。ところが、その激情を抑えられない彼女は、息子の性器を切断して、姿を消してしまう。途方に暮れる息子に、父は性器がなくても絶頂に達する方法を教えるが、妻が戻ったことで――。監督は、韓国の鬼才キム・ギドク(53歳)。これまで『うつせみ』や『嘆きのピエタ』など、数々の衝撃作を生み出してきた彼が、新たに送り出す問題作だ。今回は上流階級の一家に起きた衝撃の出来事を、一切の台詞を省き、笑う、泣く、叫ぶといった感情表現のみで描写。ギドク監督の特有のちょっとグロくて、ちょっと歪んだ、でも人間の真実をえぐり出す家族愛には注目だ。●『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』12月6日公開『スパニッシュ・アパートメント』から連なるシリーズ第3弾。ウェンディとの間に2人の子どもをもうけ、パリで生活しているグザヴィエ(ロマン・デュリス)。小説家としてもある程度成功した彼だが、あるとき、スペイン留学時の親友でレズビアンのイザベルから精子の提供を頼まれる。しかし、このことが原因となり、ウェンディは子どもを連れてニューヨークへ移住してしまう――。監督は、フランス出身のセドリック・クラピッシュ(53歳)。これまで、ハリウッド映画とはまた違う、日常の小さなドラマを切り取り、すぐ隣にいそうな人間たちを映し出してきたクラピッシュ監督。彼の代表作となる、ロマン・デュリス演じるダメ男・グザヴィエの物語も、ついに最終章。いろいろな女性の間を行ったりきたりしていた彼には、呆れつつも、なぜか嫌いになれず、見守り続けてしまった女子も多いはず。そんな彼も親となり、家庭を持ち、すっかり落ち着いたのかと思えば、やっぱりそんなわけはないらしい。クラピッシュが描く、単なる“フランス式”とも言えない、愛おしいダメ男の家族の物語もまた必見だ。●『ゴーン・ガール』12月12日公開誰もがうらやむ完璧夫婦だったニック(ベン・アフレック)とエイミー(ロザムンド・パイク)。5年目の結婚記念日に、突然エイミーが行方をくらましてしまう。メディアによって夫婦の実態が暴かれ、不審な行動を続けるニックに、次第に世間はエイミー殺害の疑惑を持つように――。監督は『セブン』、『ソーシャル・ネットワーク』などのヒットメイカーで、アメリカ生まれのデヴィッド・フィンチャー(52歳)。スタイリッシュな映像と音楽は、まさにミュージックビデオ出身の監督ならでは。1分先も予測できない完璧な脚本が、観る者をただならぬ緊張感で包み、ただ一度の瞬きすらしたくないと思わせる。幸せいっぱいに見えた夫婦の徐々に明かされていくほころびを、容赦なく描き出していく本作は、『ベンジャミン・バトン数奇な人生』とはまるで違う、生々しい家族の物語だ。2014年もあと1か月。今年の締めくくりに、世界の巨匠から“家族の在り方”を学べば、あなたの家族の物語がもっとキラキラ輝くかもしれない。『ビリー・エリオット ミュージカルライブ/リトル・ダンサー』は、TOHOシネマズ日劇にて12月5日(金)より全国にて公開。(text:cinemacafe.net)■関連作品:ゴーン・ガール 2014年12月12日より全国にて公開(C) 2014 Twentieth Century Foxニューヨークの巴里夫 2014年12月6日よりBunkamuraル・シネマほか全国にて公開(C) 2013 Ce Qui Me Meut Motion Picture - CN2 Productions - STUDIOCANAL - RTBF - France 2 Cinemaメビウス 2014年12月6日より全国にて公開(C) 2013 KIM Ki-duk Film. All Rights Reserved.
2014年11月25日『スパニッシュ・アパートメント』(’01)、『ロシアン・ドールズ』(’05)に続く、ロマン・デュリス主演、セドリック・クラピッシュ監督の“青春三部作”の完結編『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』(12月公開)。このたび、その待望の予告編が解禁となった。スペインのバルセロナを舞台に、フランス人のグザヴィエ(ロマン・デュリス)が、ヨーロッパ各国から集まった若者たちと共同生活を送る姿を描いた『スパニッシュ・アパートメント』。社会人となったものの足元が定まらず、公私共に悩みが尽きない30代を描いた『ロシアン・ドールズ』。そして、10年後、40歳となっても人生設計がズレまくりの、相変わらずのグザヴィエの悪戦苦闘ぶりを描くのが『ニューヨークの巴里夫』だ。同世代の観客の心を射止めて大ヒットした人気シリーズ、クラピッシュ監督“青春三部作”が、本作でついに完結する。前作『ロシアン・ドールズ』では、元カノのマルティーヌ(オドレイ・トトゥ)や、さまざまな女性の間を行ったりきたりしながらも、最終的には、元・留学生仲間のウェンディ(ケリー・ライリー)とハッピーエンドを迎えたグザヴィエ。子どもも生まれて、さすがに腰を落ち着けて、幸せに暮らしているのかと思いきや…。今回公開された予告編は、なんとウェンディに「好きな人ができた」とバッサリと振られるところから始まる。そしてニューヨークにいる男性の元へ行ってしまったウェンディを、やっぱり追いかけてしまうグザヴィエ。さらに、またしてもニューヨークで元カノのマルティーヌに遭遇。さらにはレズビアンの出産を手伝ったことを告白したりと、またまた、ひと騒動起きそうな予感…。完結編となる本作にも、シリーズ主要キャストが再集結。主演のグザヴィエを演じるのは、クラピッシュに発掘されて『青春シンドローム』(’94)で映画界入りして以来、クラピッシュ作品常連となったロマン・デュリス。いまではフランス映画界を代表する俳優に成長した。グザヴィエの元カノ、マルティーヌは、『アメリ』のオドレイ・トトゥ。2013年には『ムード・インディゴ うたかたの日々』でもロマンと共演している。ほかにも、このシリーズの出演をきっかけにブレイクした、ケリー・ライリー(『プライドと偏見』、『シャーロック・ホームズ』)、セシル・ドゥ・フランス(『ヒア アフター』)も登場し、1作目から成長した部分と変わらない部分を見せ、大いにファンを喜ばせてくれること間違いない。まずは予告編で憎めない“ダメンズ”、グザヴィエの奮闘ぶりをご覧あれ。『ニューヨークの巴里夫(パリジャン)』は12月よりBunkamuraル・シネマほか全国にて公開。(text:cinemacafe.net)
2014年09月30日2013年のカンヌ国際映画祭――映画業界人から観客までを虜にしてしまう、ひとりの新人女優が現れた。その名は、マリーヌ・ヴァクト。「イヴ・サンローラン」や「ルイ・ヴィトン」など名だたるブランドの広告モデルとして活躍してきた23歳だ。彼女をスクリーンの“美の女神(ミューズ)”として見出したのは、フランス映画界の旗手フランソワ・オゾン監督。カトリーヌ・ドヌーヴ主演の『8人の女たち』『しあわせの雨傘』や、リュディヴィーヌ・サニエを世界に印象づけた『スイミング・プール』などで知られる奇才にして、“女”を描く天才である。カンヌ以降、「ELLE」や「VOGUE」といったハイ・ファッション誌を始め、カルチャー誌や映画誌など世界中のマスコミがマリーヌに飛びついた。彼女の美貌に、彼女の語る言葉に、そして彼女の演じた“17歳の少女”に…。そう、彼女はオゾン監督の最新作『17歳』で、そのタイトルの通り、あどけない少女と大人の女性の間を彷徨う“17歳”という年齢を見事に演じ上げている。世界中の注目を集める彼女が今、何を語るのか?オゾン監督との出会いから女優という仕事についてまでたっぷりと聞いた。まずは、多くの俳優が共に仕事をしたいと熱望するフランソワ・オゾン、その人について聞いてみたい。そう尋ねると、オーディションの様子からマリーヌは語ってくれた。「彼はとても率直な人よ。私はスクリーン・テストをして、脚本の中のセリフを演技しながら読んだの。ストーリーが明快に書かれていて、力強く、感銘を受けたわ。その上で、フランソワには私を安心させて欲しいと思った。私をどう撮るのか、どんな美的観点で、どういう映像を撮りたいのか、といった点についてね」。新人女優とはいえ、さすが名立たるトップブランドで超一流のクリエーターたちと仕事をしてきたモデルだけあり、画作りにかけては“超”が付くほど飛び抜けた感覚を持つマリーヌ。そして映画を観てみれば、なるほどと深く頷ける美しい世界が紡がれている。マリーヌが演じたのは、本作の主人公・イザベル。美貌の内に17歳独特の不安定な心を抱えながら、未知なる大人の世界へと興味を持ち始めた少女だ。彼女にとっての“未知なる世界”――それを本作では“セックス”という形で描いている。誰しもが通る17歳という時間だが、その最も顕著な興味の対象であり、“大人”の象徴とされるものだろう。本作は春・夏・秋・冬の4つの季節を通して描かれる。第1幕となるのは夏のシーン。17歳の誕生日を迎え、ドイツ人の彼氏にドギマギしながら少女らしい表情を見せながら、恐る恐る初めて“未知なる世界”に足を踏み入れる。そして、第2幕となる秋のシーンに切り替わると大人っぽいスーツを着て、高級ホテルで客を取るようになっているのだが、そこでもまだぎこちなさは残っている。しかし、第3幕の冬のシーンでは驚くほど大人びた表情を見せる。少しひねたような歪んだ微笑を浮かべながら、世の中を見ているのだ。このイザベルの絶妙な表情のさじ加減をどのようにして生み出したのか。そして、どんな風に役へと入り込んでいったのだろうか?「彼女の心境を完全に理解できるとは言えないけど…彼女という人間に感銘を受けて、この役に一定期間、没頭したいと思ったの。そして役を演じるうちに、自然に自分自身のある部分が彼女の中に交わっていったわ。(ヌードシーンは)初めは少し怖かったけど、最終的には、ほかのシーンと同じように対処したわ。撮影や自分の役柄にすっかり入り込んでいたから、シーンの時には素の自分のことはすっかり忘れていたの。それは、とても素敵な心地がした。撮影は2か月間を要したけど、私はいままでそれほど長い期間、一つの作品に全力で関わったことはなかった。撮影は、ほぼ脚本に書かれている時間軸に沿って行われたの。だから撮影が進むにつれて、イザベルのことをどんどん理解していくことができた。エンジンを温めてから、高速ギアに入れていく感じね。イザベルは、薬物やほかの過激な経験に手を染めるのと同じように、(売春婦として)客を取っているの。つまり、自分の回りの世界に立ち向かい、『自分が何者であるか』を見極めようとするの。彼女は、自分や他人を鋭い眼差しで見つめているの――実際、彼女は、ほとんどの同年齢の子どもたちや、彼女の周りの多くの大人たちよりも賢い。だから、イザベルは自分の行動に対する責任を取るし、言い訳もしない」。モデルから女優へと転身する者は少なくない。そしてお世辞を抜きにすれば、外見は美しく整えられても、心がそれに追いついていないという例は多い。しかし、上述したマリーヌの言葉からも、本作での彼女がその例の通りでないことは明らかだろう。そして、それはイザベルの外見部分にまで影響しているようだ。「(イザベルの外見については)フランソワとはかなり意見交換をしたわ。彼には撮影前に、少し髪を伸ばすことや、ティーンエイジャーのように見えるように、体重を数キロ増やすように言われたわ。イザベルは自分の外見には無頓着なの。彼女はすぐにイチャイチャするタイプではないし、ファッションにも興味がない。衣装スーパーバイザーと相談しながらいろいろな服を試し、それぞれの季節にふさわしいイザベルの服装を決めたわ」。売春婦が登場する映画は少なくはない。しかし、本作のようにお金でも優越感でもなく、自分の存在を確かめようと売春を続ける少女に肉薄していく作品は珍しく、そしてその罪を犯す感覚は、17歳だった頃の自らの愚かさを思い出せば共感を覚えてしまうはずだ。そんなスクリーンの中に住まう“女”でもあり、そして観る者たちの誰もが持つヒロイン・イザベルを、マリーヌはこう分析する。「彼女には偽善がまったくないの。作品を観ると、彼女は脆い存在だけど、同時に強さもあって、ユニークな若い女性だということが分かる。少し孤独で、人との関係が希薄で、あまりコミュニケーションを取るのがうまくない。(ある事がきっかけで、両親に売春をしていることがバレてしまうけど)イザベルは、売春の経験について誰にも話す気はないし、誰かに秘密を打ち明けたくもない。彼女の物静かな様子は共感できるし、感銘を受けるわ。イザベルは人と距離を取りながら生きているの――そこにいるけれども、いない、というようにね」。売春をしていたことが両親にもバレ、警察に厄介になり、両親の友人たちにも知れ渡ってしまう。簡潔に言ってしまえば、居心地の悪さこの上ない状況だ。しかし、そこからのシーンやイザベルの表情や言葉こそ、本作の真髄なのではないかと感じさせる。美しき17歳は、当人にとっても“少女なのか?大人なのか?”と曖昧なものだが、イザベル以外の登場人物たちにとってもそれは同じなのだ。大人たちの彼女を見る視線は、イザベルが色香を放ちながら微笑する時、“女”を見るものとなる。劇中、イザベルが発するセリフの中に「危険な人間は、私ではない」という言葉がある。危険なものは誰なのだろう?「大きな意味では、危険というのは、イザベルが他人の心の中に喚起させる欲望のことを指しているんだと思うの。みんな、イザベルの若さや美しさを前に、自分自身の欲望やフラストレーションを直視せざるを得なくなるからよ」。17歳の少女の心の内を表すために、大人たちの視線を演出に入れるその手腕、“さすがはオゾン監督!”と両の手を叩きたくなる。そんな奇才との仕事が充実した時間だったことは上述の通りだが、気になるのは“これから”のこと。最後に聞いてみよう、今後も女優業は続けていく?「モデル業をしていて偶然この業界で仕事を始めることができた。セドリック・クラピッシュが、『フランス、幸せのメソッド《未》』の中のある役を演じるモデルを探していたのがきっかけなの。アレクサンドル・アルカディ監督の『Ce que le jour doit a la nuit』で役を演じられたのは、思わぬ幸運だったわ。演技の面白さに気づいたのは、ジョアン・シュムラ監督の短編『L’homme a la cervelle d’or』に出演した時ね。今は、『17歳』のおかげで、すっかり演技の仕事に夢中になっているわ」。この言葉からも答えは言わずもがな。次はどんな女性として、スクリーンの中に現れるのだろうか?(text:cinemacafe.net)
2014年01月31日働くなでしこのリアルな本音にあらゆる視点でスポットを当て、多くの支持を集めた映画『ガール』。待望のDVDリリースを記念して、女優・玄里が監督・深川栄洋に直撃!弱冠36歳にして『白夜行』、『洋菓子店コアンドル』、『神様のカルテ』、そして本作と引く手数多の売れっ子監督が“映画”にたどり着いたルーツとは?その素顔に迫る!——『ガール』に織り込んだヨーロッパ映画愛玄里:映画を観る前に、本作が日本版「セックス・アンド・ザ・シティ」(「SATC」)と聞いてたのですが、思っていたよりも楽しいだけじゃない部分にも焦点が当てられている気がしました。それは深川監督が意図したものなのでしょうか?深川:この映画のお話をいただいたときに原作(奥田英朗作)を読んだのですが、原作は女の子たちの素朴な心の動きに焦点を合わせていてすごく面白くて、女の子ってこういう考えや悩みを持ってるんだと興味を持ちました。でも今回、日本版「SATC」のような、大人が観れるロマンティック・コメディにしたいという要望があって。僕のやりたい世界でやるのは、難しいさじ加減だなと思いながらも、新しい挑戦が好きだし、やったことのないものをやる前から否定しても面白くないので、僕に期待してくださるならと信じて引き受けました。物語は日本の女の子の話で、「SATC」の主人公たちとは金銭感覚も価値観も違うので、ヨーローッパ映画のようなロマンティック・コメディ寄りにシフトしていったんです。それがプロデューサーの思いを貫徹できてるかは聞いてませんが…(笑)、僕が目指したところには船はたどり着いたかなと。玄里:監督自身は、ハリウッド映画よりヨーロッパ映画が好きなんですか?深川:断然そうですね!特に若いときはそうでした。玄里:具体的に影響を受けた監督はいらっしゃるんですか?深川:若いときに観てドキドキしたのは、アルノー・デプレシャン監督の『そして僕は恋をする』(’97)やケン・ローチ監督の『ケス』(’96)、パトリス・ルコント監督の『髪結いの亭主』(’91)、『百貨店大百科』(セドリック・クラピッシュ監督/’92年)など、90年代のフランス映画が好きでしたね。『最強のふたり』(現在公開中)も90年代のフランス映画の良き匂いみたいなのを感じました。玄里:おいくつぐらいから映画を観始めたんですか?深川:きっかけは高校3年生のときに付き合ってた女の子が映画が好きで、彼女に付き合って観たり話を合わせたいから、彼女が観たいと言ってた映画を先回りして観て「あの作品観たよ」みたいな形で映画の良さに気づき始めたので、本当に遅いんですよ。ちゃんと映画に向き合ったのは専門学校に入った18歳の頃からで、それまでに観てきた映画以外にもいろんな映画があるんだというのを知って、25歳くらいまでにいろんな映画を観ましたね。いまも新しい匂いがする映画を自分の嗅覚で嗅ぎ分けて、休みがあると観に行きますよ。玄里:監督は専門学校で元々、録音を勉強されていたんですよね?深川:同じクラスだった吉田恵輔監督は照明系をやっていて、僕は録音技師になれたらいいなとぼんやりと考えてたやる気のない学生でした(苦笑)。玄里:なんで録音だったんですか?深川:僕は本当に不勉強で、女の子が好きだから入ってしまった不純な男でお恥ずかしいんですけど、勉強もできないし、監督は無理だろうなと思ってたんです。そのときに観たヴィム・ヴェンダース監督の『リスボン物語』(’95)という映画の主人公が録音技師で、劇中で映画の声をつけたり近所の子供たちと足音や風の音などをつけているのを見て、声や音を吹き込むことで映画が命をもつということを教わったような気がしたんです。こんな仕事は素晴らしいと思って録音のコースに入ったんです。——映画監督の仕事の95%は「我慢」!?玄里:そうだったんですね!監督はその後、かなり早いペースで映画を撮られてますよね。中でも印象が強かったのが『白夜行』、特に劇中の子供たちのシーンに惹かれました。でも、その次の『神様のカルテ』で作風ががらっと変わったので、私の中ですごく意外だったんです。監督自身のジャンルへのこだわりはあるんですか?深川:僕は映画館で映画を観て9割は「面白いな~」って思って出てくるんですけど、それは多岐のジャンルに渡るんです、ホラーは苦手なのですが。いつもこんな映画が観たいなと思う映画にチャレンジしているので、いただいた企画に関しては「映画が生まれてくる意味があるなら」、「僕でお役に立てるなら」という感覚でやってるんです。だからジャンルは特にこだわらない。だから『ガール』も、この映画を観て次の日にこういう風に女性に接してみようという男の子が現れたり、“悩んでるのは私だけじゃないんだ”と思ってくれる女性がいたり。お光さん(檀れい)のような、彼女は周りから若作りしてると言われるけどとても幸せに見えるし、彼女みたいな生き方ができれば女性が幸せになれるんじゃないかなと思ったり。玄里:私も『ガール』の中でお光さんが一番好きです!檀さんのコメディのお芝居も意外でしたし、全体的にいままでの役のイメージと異なるような役をみなさんやってると思いました。キャスティングはかなりこだわったのですか?深川:この作品でパブリックイメージ通りの人を選んでいっても、パンフレットだけで消化できてしまうものになる気がして。そうじゃなくて、映画館の扉を開けて暗闇に包まれたら見たことのない女優さんの表情や苦悩が見れたり、そういうものが映画だと思うんです。俳優さんを苦しめてしまうことは多いんですが…、俳優さんの新しい引き出しを作ってあげることになったり、新しい扉を見せていただくことになったりとか、特別な映画になったよねって響き合いながら作っていきたいので、それをお客さんに観てもらって新しい映画だなと思ってもらえたらいいなと思うんです。玄里:俳優側からすると、すごくありがたい監督だと思います!深川:いや、そう思っていただける方は少ないかもしれません(苦笑)。玄里:じゃあ、監督のお仕事の中で演出が楽しいですか?キャスティングや編集など、色々ありますが。深川:どれも楽しくないですね…どれも苦しい。監督をやってみて思うのは、監督は仕事じゃなくて“状態”だと。監督の“状態”にいるときには楽しいことなんて1個もなくて、一番僕が楽しいと思うのは映画館で映画を観ているときなんです。監督の状態の9割5分は苦しみを耐える我慢。あと5%くらいは響き合えていい芝居撮れたな、ここは絶妙だなと奇跡的な瞬間に幸せを感じるんですけど、それ以外は我慢の連続。すごく孤独だし、それを打ち明ける人もいないし、現場はチームワークで作っていきますが、そのチームワークの頂点にいなきゃいけないときもあれば、いま現場ではこういう流れになってるけど本当に大事なのはこれなんだよね、でも言うのは止めておこう、とかひとりで考えたり…。もう一回人生をやり直すならこの仕事は選びたくないと思いますね(笑)。玄里:それでも深川監督が監督を続けている原動力は何ですか?深川:人に期待されるとそれを返してしまうというか、こういう映画が観たいと思われるうちはやってたいと思っていて。いまはたぶん、お客さんが求めているものと割と近い価値観をもっていると思うんですけど、それは生ものであって、これまでいろんな監督が時代に合った瞬間があったと思うんですけど、それも一瞬。いまは僕がバトンを持って走ってる感覚なんですよね。その役割が果たせなくなったら、今度は自分の感覚から生み出す作品を作っていこうかなと思っています。元々は自主映画で、誰も期待していないところに無理矢理映画を作って、映画館に行って「僕の映画を作ったんです。最高に面白いので公開してください!」と言って回ってた人間なので、またそこに戻っていこうかなと思ってます。玄里:では、一生映画監督は続けられるってことですね?深川:健康なうちは…。『ガール』の撮影前に肺気胸になってしまって、これでだいぶ人に迷惑をかけたので、肺に穴を開けない状況にしなきゃなって。いま10本以上の企画が同時進行していて頭も体もずっと使っているので、倒れないようにいまは体力づくりをし始めているんです。玄里:さっき仰ったバトンをもらってからずっと走り続けている感覚ですね。深川:次の監督が来るまでは頑張って走り続けようと思ってます。玄里:これからも監督の作品を楽しみにしています!(text:cinemacafe.net)
2012年11月26日再ブームの兆し!「フランス映画」&「映画好きが見る映画」に再び注目!色彩豊かでコミカルな映像から始まる、あのセドリック・クラピッシュ監督が長編10作目という節目に、満を持して挑んだ渾身の意欲作『フランス、幸せのメソッド』のDVD化を記念して、監督自身のインタビューをお届けする。Photo by Dave Kotinsky/Getty Images●この作品を作ったきっかけは?この作品を作ったきっかけは、現在の世界情勢にある。基本的には時事問題に関する映画をつくることはあまり良くないと考えていたので、実は初めはちょっと怖かったんだよ。一般的に物語を描く時には、社会学というよりも詩的な要素に注力するもの。だけど、今回はなぜだか分からないが、何か社会的なことにフォーカスする必要があると思ったんだ。今すごい速さで移り変わっているこの社会情勢についてね。●もっと具体的には何にフォーカスしようとしていたのですか?今、人類は大きな分岐点に立っていると感じて、それを表現すべきだと思った。19世紀末のフランスで産業革命が起こったのと同様に、21世紀の今、産業社会から、グローバリゼーション、デジタル革命へと変化していっている。暴力的に変化しているこの世界では、もはや産業というものが価値を持っていない。肝心なことは、流れと運動のみ。例えば、「バーチャル」な世界は「リアル」よりも価値を持っている。この作品の脚本を書いている時、「金持ちと貧乏」の対比ではなく、むしろ「バーチャルとリアル」の対比を描こうとしたんだ。●この映画のテーマについてロイック・デュリーの曲に、こういう歌詞があるんだ。「世界がどこに行くかはあなた次第…」。私はこの言葉を信じている。たとえ世界が問題ばかりでも、私たちはそれを受け止める必要性は必ずしもない。私は(不正に対する)反抗精神とレジスタンスを信じている。たとえ、理想的で幼稚な考えだと批判されても、私は「フランスの味方」でありたいと思っている。作品情報『『フランス、幸せのメソッド』TSUTAYAだけでDVDレンタル開始:2012年6月15日(金)DVD発売:2012年8月2日(木)発売元 :カルチュア・パブリッシャーズ(セル・レンタル)販売元 :カルチュア・パブリッシャーズ(レンタル)/ハピネット(セル)(c)2010 / CE QUI ME MEUT MOTION PICTURES - STUDIOCANAL - FRANCE 2 CINEMA - Tous Droits Reserves
2012年06月15日『アメリ』で知られるフランスの女優、オドレイ・トトゥが、英女性誌上で女優業は40歳で引退をするつもりだと語った。『アメリ』でフランスのみならず日本でも一躍人気者になり、『ダヴィンチ・コード』でハリウッドにも進出、と大スターの道をばく進中のオドレイは8月に35歳の誕生日を迎えるが、「数年前、40になったら、きっと引退するだろうと考えたの。ほかにやりたいことが出てくるはずだから」とUK版「Marie Claire」のインタビューで語る。では具体的に何をやりたいのかというと、「分からないわ。でも、仕事以外にやりたいことはたくさんあるのよ」と言い、そのひとつが“航海”とのこと。「5年後には自分の船で世界一周の旅に出るかも。大西洋横断をぜひやりたいわ。実現できるかどうかは分からないけど、ずっと前から船乗りになるのが夢だったの。私にとってヒーローなのよ」とはいえ、今後もセドリック・クラピッシュ監督の『Chinsese Puzzle』(原題)やモーリヤックの名作「テレーズ・デスケルー」を名匠クロード・ミレールが映画化する『Therese D.』(原題)のヒロイン役など、出演作の撮影が控えている。5年経つ頃には心境は大きく変化、女優の道を邁進、という可能性も高そうだ。(text:Yuki Tominaga)© AP/AFLO■関連作品:ココ・アヴァン・シャネル 2009年9月18日より全国にて公開© Haut et Court - Cine@ - Warnerbros. Ent. France et France 2 Cinema■関連記事:【シネマモード】2010年 映画ファッションのいままでとこれから徐々にオスカー候補が見えてきた?英国アカデミー賞候補が発表にブラピ再降臨 vs J・デップ!写真でふり返る来日ハリウッドスター2009【後編】オドレイの初々しさは必見「ブリリア ショートショートシアター」招待券を3組6名様プレゼントシャネルの生涯の恋人を演じたアレッサンドロ・ニボラ「少年のようなココの服が好き」
2011年07月15日日本でも高い人気を誇るフランス人俳優、ロマン・デュリスを主演に迎え、本国フランスで120万部を売り上げたベストセラーを映画化した『メッセージそして、愛が残る』の予告編がシネマカフェに独占先行で到着した。デュリスが演じるのは、幼い息子を突然失ったショックから、残された妻と娘を遠ざけ、仕事に逃避する日々を送る弁護士・ネイサン。そんな彼の前に、ケイと名乗る医者が現れる。彼は、人々の死を予見するという不思議な能力を持っており、彼のそんな力を目の当たりにしたネイサンは、自分にも死期が迫っていると直感し、離れて暮らす妻と娘との絆を取り戻そうとするのだが…。『青春シンドローム』、『スパニッシュ・アパートメント』のセドリック・クラピッシュ監督作品をはじめ、数々の作品で“青春の苦悩”を演じてきたデュリスが、30代半ばにさしかかり、愛すること、生きることに思い悩む大人の男を熱演!本作で、全編英語による演技に初めて挑戦している。人の死を予見する能力を持つ医師・ケイを、脚本に惚れ込んで出演を熱望したジョン・マルコヴィッチ、さらに「LOST」、オスカー受賞作『ハート・ロッカー』で注目を集めるエヴァンジェリン・リリーが、ネイサンの妻・クレア役で確かな存在感を放っている。アジアを代表する撮影監督、リー・ピンビンによる叙情的な映像にも注目!『メッセージそして、愛が残る』は9月25日(土)よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開。※こちらの予告編映像はMOVIE GALLERYにてご覧いただけます。MOVIE GALLERY■関連作品:メッセージそして、愛が残る 2010年9月25日よりTOHOシネマズ シャンテほか全国にて順次公開© 2008 FIDELITE FILMS - AFTERWARDS PRODUCTION INC - AKKORD FILM PRODUKTION - WILD BUNCH - M6 FILMS
2010年08月02日女優の層は厚いのに、若手男優の層がちょっと寂しいフランス映画界。美形にしろ、個性派にしろ、大物感を漂わせる次世代俳優がなかなか登場しないのが個人的に気になるところです。現在、六本木エリアで開催中のフランス映画祭でも、作品、来日ゲストともに、どことなく女優たちの活躍の方が目立つ気が…。でも、ちょっと心もとない次世代を支えるかのように、がっちりと地盤を固めているのが、アラフォー世代の俳優たち。フランス映画祭で来日中のマチュー・アマルリック、シャルロット・ゲンズブールの夫で監督でもあるイヴァン・アタル、監督業にも進出したブノワ・マジメルら、容姿、特徴も多彩な人々が、この世代ならすぐに思い浮かびます。中でも個人的に注目しているのは、ロマン・デュリス。個性的な風貌と強い目ヂカラを持ち、セドリック・クラピッシュ、トニー・ガトリフ、ジャック・オディアール、パトリス・シェローら名監督たちに愛されている演技派。最近では、『ルパン』や『真夜中のピアニスト』で、繊細さやいい男ぶりも披露し、幅の広い演技力と魅力を感じさせました。そんな彼が今回挑んだのは“喜劇の神様”モリエール。映画『モリエール恋こそ喜劇』は、貧乏な劇団の俳優として、「もっと魂を追及できる真面目な作品に取り組みたい」と考えていた若き日のモリエールが、笑いの中に人間の本質を描き出す名作づくりへとどのように辿り着いたのかを描いたドラマ。製作者たちは、モリエールの人生の中で、空白となっている22歳当時の数ヶ月に着目し、どんな出会いがあり、どんなものを見て、聞いたのかを想像しながら、モリエールの内面に迫っていきます。ちょっと乱暴に言うなら、フランス・モリエール版『恋に落ちたシェイクスピア』という感じでしょうか。とはいえ、ロマンの存在がこの作品をフランス映画らしい、良い意味での“ひと癖”を生み出しています。何せ、ロマンスも含まれる物語の主役なのに、髪型は似合っているのか似合っていないのか、容易には判断できないほどに微妙な感じの長髪。でも、かっこいいのか、悪いのかなんてどうでもいいと感じさせるほどのインパクトが、やっぱりロマンらしいのです。以前、インタビューで会った際、何の前触れもなく、いきなりスキンヘッドで登場してきて驚かされたことがありましたっけ。インタビューの直前に見た作品とはあまりに違う印象だったので、「あっ、髪型が…」と言うと、「へへへ」といたずらっ子のように笑っていました。最初は、「うっ、くりくり坊主だ。いままで見てきた彼とイメージが違う」と違和感を覚えて戸惑っていたのですが、いつしか髪形なんてどうでもよくなり、彼らしい愛嬌と絶妙の話術に引き込まれてしまいました。彼の場合、似合う、似合わないということなど別次元のことにしてしまい、すべて自分のものにしてしまう力がお見事。そほれほどまでに、人間として、役者として個性的なパワーに満ちているということなのでしょう。今回、実在した喜劇の神様を演じるロマンですが、彼の演技はいたってシリアス。彼自身がコミカルな演技をする場面は、意外なほどに少しです。でも、コメディの達人たちが持つ、登場するだけで、ちょっと動いただけで何だか可笑しいという雰囲気を上手くかもし出しています。特に楽しいのは、馬になりきる演技をする場面。本人(モリエールですが)は真剣に馬になりきっているのですが、あまりに馬に似すぎていて怖い…。それが何ともおかしいのです。さらには、共演者たちとのちょっととぼけた演技、やりとりの間合いも絶妙で、まさにこの作品自体がモリエールの喜劇のよう。モリエールを良く知る人は、細部に登場するちょっとした仕掛けにも思わずにんまりさせられるのではないでしょうか?ロマンが魅力的に演じてくれたおかげで、もっと知りたくなったモリエール。「町人貴族」、「人間嫌い」、「タルチュフ」、「スカパンの悪だくみ」…、いろいろ調べてみようかな。そして、再度『モリエール恋こそ喜劇』を観たら、さらに面白く感じられるはずですから。(text:June Makiguchi)フランス映画祭2010開催期間:3月22日(月・祝)まで開催中会場:TOHOシネマズ 六本木ヒルズ公式サイト:■関連作品:モリエール恋こそ喜劇 2010年3月6日よりBunkamuraル・シネマほか全国順次公開© 2006 FIDELITE FILMS-VIRTUAL FILMS-WILD BUNCH‐FRANCE 3 CINEMA-FRANCE 2 CINEMA
2010年03月19日