7月7日に開業した東京・オルタナティブシアターで、こけら落としからロングラン公演を続けている『アラタ~ALATA~』。本作は、海外からの観光客も楽しめるよう、極力言葉を使わず、殺陣やダンスなどのパフォーマンスで構成するノンバーバル(非言語)作品として誕生した公演だ。作を横内謙介、構成・演出を岡村俊一が手掛けるほか、サムライアクション・ディレクターを早乙女友貴、ダンスクリエイターをElina、音楽制作をMiliが担当、次代を担うメンバーが顔を揃えた。【チケット情報はこちら】開幕から約2か月半経っての想いを、構成・演出の岡村と、戦国時代の姫(千代姫)役・吉田美佳子に聞いた。2020年の東京に迷い込んだ戦国武将・アラタと偶然出会ったOL・こころが、なんとかして彼を元の時代に帰そうとするストーリー。外国人客を意識し、殺陣はもちろん神社や満員電車など“日本らしさ”を多く盛り込んだ内容は評判も上々だ。そこには外国人客ならではの見え方もあるようで「アラタは戦国武将なのですが、日本人は『戦国』という文字を見ると大体『戦国時代、信長』と考えますよね。でも外国人はそこまで日本史を認識していないので、この物語もタイムスリップと捉えず、現代の日本人が戦い始めるように感じたりするようなんです。だからこそ、あらすじとはまた別の、潜在的なストーリーを構成したことが外国の方の心に届いているなと感じます。先日、ニューヨークの方が『これを今ブロードウェイでやらない意味がわからない!』と言ってくれたりしました」(岡村)。初演から2か月半、ひとりで千代姫を演じ続けている吉田。長く演じるうちに慣れてしまったりあらぬ方向に進んだりしそうなものだが、「ストーリーや自分の役割をより意識するようになって、緻密に気持ちづくりができようになってきたんじゃないかなと感じています」と話す通り、千代姫はより雅さを増し「姫らしさが増した」という感想も届くほど。長い公演で芯をブレさせずに成長を続けられるのは、この作品がこれまでにない挑戦として生まれたことにも理由がある。「歴史に残る、例えば歌舞伎やシェイクスピア作品って、最初に世に出した人が非常に魅力的に演じたんだと思うんですよ。それを観て、人は『あれがいいんだよな』と言うわけで。残っていけるのはそういうものだと思います。だからゼロから始めるときに、“ああいうなにかをやりなさい”という考え方では被り物と同じになってしまう。それぞれの魅力的な部分、ゆっくん(早乙女)なら殺陣、Elinaならダンス、美佳子なら新鮮な輝き、その一番いい部分で演じたものじゃないと残っていけないし、長くやれないなと思ったんですよね」(岡村)。吉田が「何度観ても新しい発見があると思います。若い世代の方にもたくさん観ていただきたいです!」と語る本作は、東京・オルタナティブシアターにてロングラン上演中。取材・文:中川實穗
2017年10月03日今秋、待望の新橋演舞場での再演が決定した『スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)ワンピース』。累計20万人を動員した作品の再演に際し、製作発表記者会見が行なわれ、主人公ルフィを演じる市川猿之助、脚本・演出を務める横内謙介、そして松竹株式会社取締役副社長の安孫子 正が登壇した。『スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)ワンピース』チケット情報安孫子副社長の挨拶では「初演の初日が終わった後、いつ再演しようかとすぐに考えた」と同作の勢いを感じる印象的なひと言が。「歌舞伎好きの人だけでなく、ワンピース好きの人、特に小中学生の来場も多く、幅広い層に観てもらうことができた。ぜひ多くの人に歌舞伎を知ってもらうきっかけになれば」と語った。「2年前の会見時は、歌舞伎界と漫画界を敵に回すのではと思っていた。猿之助さんの原作未読発言もあり、「そんなこと言っちゃダメだ!」とまるでウソップのような気持ちでした」と会場を笑わせたのは脚本・演出を務める横内。初演では東京公演を経て、よりワンピースへの理解が深まったと語り、特に印象的だったことについて「東京では手下1、2としていたキャラクターに、大阪、福岡ではそれぞれ役名をあたえたら、役者たちがより輝きはじめた」ことをあげ、「東京公演後の練り直しが多かった分、東京で観てくれた人たちにまた観てもらわないといけないという気持ちがあった」と再演を喜んだ。原作の尾田栄一郎から「何をやってもルフィにしか見えないから大丈夫」と言われたという猿之助は、今作について「再演ということになりますが、また新たなワンピースという気持ちで作っております。一度観た方は本当に同じ作品だろうかという驚きをもって、初めての方にはワンピースの世界を楽しんでもらえればと。ぜひ期待してください」と意気込みを語った。また特別マチネとして開催される、麦わらの一味に若手を抜擢した『麦わらの挑戦』ついては「これまで先輩である僕に支えられていた部分があると思いますので、僕がシャンクスに回ったときに、ルフィ役の尾上右近、そしてルフィを支える若手の彼らがどうなるかお手並み拝見ですね」と話した。質疑応答では今作の演出プランについて聞かれ、「(主題歌を担当する)ゆずのステージからインスピレーションをもらっています。5月にゆず20周年のライブを見て刺激を受けたので、演出、最新技術を取り入れてみたいなと思っています」と語る場面も。歌舞伎で表現する新たなワンピースの世界。原作者も太鼓判を押すルフィとその仲間たちの冒険を、ぜひ劇場で体験してみてほしい。公演は10月6日(金)から11月25日(土)まで。チケットの一般発売は10月公演分が8月20日(日)、11月公演分が9月18日(月・祝)より。
2017年07月28日東京・有楽町にオープンする新劇場・オルタナティブシアターのこけら落とし公演『アラタ~ALATA~』が、7月7日(金)に開幕。テープカットセレモニーとゲネプロが行われ、公募で集まった外国人観光客が報道陣とともに新劇場の門出を祝った。舞台『アラタ~ALATA~』チケット情報本作は、言葉を極力用いることなくパフォーマンスで演劇のようなストーリー展開をしていく“ノンバーバル(非言語)パフォーマンスショー”。劇団扉座主宰の横内謙介が作を、「あずみ」シリーズなどで知られる岡村俊一が構成・演出を手がけ、サムライアクションディレクターを早乙女友貴、ダンスクリエイターをElina、音楽制作をMiliが担当している。来場した観客を迎えるのは、忍者に扮したパフォーマンス集団「CRAZYTOKYO」。ロビーや客席の至るところで曲芸やジャグリングなどを繰り広げ、外国人観光客の中にはカメラを向ける者も。上演前に行われる注意喚起の場面でも清掃員に扮した女性パフォーマーが舞台上に登場し、「撮影禁止」「食事は禁止だがドリンクはOK」といった項目を映像とパントマイムでわかりやすく伝えていた。ゲネプロは、Elina演じるOL・こころの日常を描くシーンからスタート。満員電車に揺られて出勤し、上司から仕事のダメ出しを受け、閉塞感を覚えていく様子を、Elinaは複数のダンサーを従え、緩急ある動きで表現する。そんなこころの前に現れたのは、早乙女演じる戦国時代からタイムスリップしてきたサムライ・アラタ。悪霊と戦っている最中に2020年のトーキョーに吹き飛ばされた彼をこころは元の時代に戻そうとするが、怨霊の玉野尾らが過去から追いかけてきて――。これまでの出演作で見事な立ち回りを披露してきた早乙女の峻烈な太刀裁きは、本作でも健在。居並ぶ敵を見据え、時には両刀使いで次から次へとなぎ倒していく。また殺陣の中にダンスや蹴り技などのアクションを融合させ、低い重心だけにとどまらない軽やかな身のこなしも披露。戦国時代にはない自動販売機の存在に驚いて炭酸飲料を噴き出し、トイレのウォシュレットを壊してしまうチャーミングな“サムライ”ぶりでも客席を魅了した。終演後の囲み取材では、横内が終演後の楽屋を訪れたエピソードを紹介。激しい動きの連続に倒れ込んでしまった早乙女とElinaの姿を見て、「豪華な設備で最新技術が投入されている作品だけど、やっぱり最後に我々の胸を打つのは人間の力」とキャストの奮闘ぶりを絶賛した。早乙女は「衣装の中に汗がたまって貧血状態になってしまって……」と照れ笑い。外国人観光客の反応を目の当たりにした岡村は「海外の方にも日本のエンタメが届いた感触がありました」と顔をほころばせた。「アラタ~ALATA~」はロングラン公演を予定。9月1日(金)から始まる第2期のチケットは、8月1日(火)に発売をスタートする。なお本作は、その日によってキャストが変わる“回替わり公演”が採用される。取材・文:岡山朋代
2017年07月07日東京・有楽町に7月7日(金)に開業する「オルタナティブシアター」のこけら落とし公演「アラタ~ALATA~」の稽古場が公開された。舞台「アラタ~ALATA~」チケット情報本作は、極力言葉を使わずに、パフォーマンスで演劇のようなストーリー展開を構成する“ノンバーバル(非言語)パフォーマンスショー”。海外からの観光客も楽しめる演劇として、作を横内謙介、構成・演出を岡村俊一、サムライアクションディレクターを早乙女友貴、ダンスクリエイターをElina、音楽制作をMiliが担当する。物語の舞台は2020年のトーキョー。そこに、姫を守るために悪霊と戦いの中で、戦国時代からタイムスリップさせられてしまったサムライ・アラタが現れる。そんなアラタと出会ったのは、現代を生きるOL・こころ。こころはアラタを元の時代に戻そうとするが、過去から追いかけてきた妖怪が行く手を阻み――。稽古で公開されたのは、Elina演じるOL・こころの日常シーン、早乙女演じるアラタが魔物と戦うシーン、アラタとこころが現代の機動隊と対峙するシーンの3場面(※キャストは回替わり)。舞台の冒頭でもある、こころの日常を描いたシーンは、「言葉を使わないとはこのこと!」と見せつけるような鮮烈さ。Elinaを中心としたダンスで、日常の中でこころが感じる疎外感や孤独を描いてみせた。アラタの戦闘シーンでは、ダンスに殺陣を混ぜたというパフォーマンスが圧巻。岡村が「今、日本一の剣の使い手」と評する早乙女が、目にも止まらぬ速さからスローモーションまで自在に操る、美しい殺陣を披露。もちろんただ美しいだけでなく、その一つひとつが想いや状況を物語っており、表現の豊かさに驚かされた。また、どのパフォーマンスもMiliの音楽と合わさるとさらにドラマチックに感じられるのも印象的だ。出演者には、早乙女、Elinaのほか、オーディションで選ばれたニューフェイス・吉田美佳子ら、各ジャンルの次世代クリエイターが集結。公開稽古後には、その中から早乙女、Elina、吉田、そしてアクション部の塚田知紀、アンサンブルダンサーの林祐衣、パントマイムアーティストのSATOCO、構成・演出の岡村が登壇し挨拶。岡村からは「プロジェクションマッピングで壁面から天井まで視界全面に映像が映し出されます。劇場全体が押し寄せるような感覚です」「劇場には“フライング発射台”が備わっていて、フライングのスペシャリストも出演します」と劇場の最新設備を活用した演出の構想もチラリ。キャストたちは本作に挑む楽しさを生き生きと語り、本番への期待を高めた。「アラタ~ALATA~」は7月7日(金)からロングラン公演を予定。その日によってキャストが変わる“回替わり公演”が採用される。取材・文:中川實穗
2017年06月22日7月7日(金)に東京・有楽町に開業する多目的劇場・オルタナティブシアター。そのこけら落とし公演『アラタ~ALATA~』の製作発表会が4月4日に行われ、脚本の横内謙介、演出の岡村俊一、出演者のElina、早乙女友貴、吉田美佳子が登壇。Elinaはダンス、早乙女は殺陣、吉田はイリュージョンを披露した。舞台「アラタ~ALATA~」チケット情報オルタナティブシアターは、観客の7割を外国人と見込み、“ノンバーバル(非言語)パフォーマンス”を特徴とする新劇場。そのこけら落とし公演となる本作は、ほぼ言葉を使わず、殺陣やダンスのパフォーマンスに、特殊映像、フライングなど日本の最先端技術を盛り込み表現するステージになるという。脚本は横内謙介、演出は岡村俊一が務め、音楽は音楽制作集団Miliが担当する。出演者は、10代からダンサー・女優として活躍し2015年にニューヨークへ単身留学、帰国後は世界基準のダンス、コレオグラフにフォーカスし活躍するElina、日本を代表する大衆演劇の劇団朱雀にて1歳半で初舞台を踏み、殺陣の分野ではスピード・技術共に“日本一”と称される早乙女と、次世代を担うスペシャリストが揃い踏み。さらにキャストオーディションを勝ち抜いた吉田が新風を吹き込む。会見で横内は「外国人の方に観ていただくことは大きな目的になりますが、自分たちが美味しいと思わないものを海外の人が食べて美味しいはずがない。演劇仲間が観ても『これは面白いものだ』とリピーターになってもらうようなものをまずしっかり作り、それをもって海外の方にも『僕たちも楽しく観ているものだよ』と紹介していただけるような作品にしたい」と意気込む。岡村は台詞のない芝居について「(劇中で)感情がブワッと出た瞬間にそれが違う形にかわったものが、音楽であったり、踊りであったり、殺陣であったりする。擬音は使いながら、基礎感情に沿った表現を劇化してつないでいければ」と構想を語った。「芝居の入った舞台は3年ぶり」というElinaは今作では“ダンスクリエイター”として「ダンスの可能性を皆さんに知っていただきたい。ダンスにしか表現できない情感、雰囲気、空気感、繊細で緻密な部分を出していけたら」、早乙女も“チャンバラスペシャリスト”として「言葉がないので、シーンによってお芝居の入った殺陣だったりとか、剣舞のような舞っているような殺陣を盛り込んでいけたら」と語る。吉田は「出演が決まったときは本当にうれしくて、全力でがんばろうって思いました。まだまだ経験も浅いので、その分なにごとにも挑戦してがんばりたい」と笑顔を見せた。『アラタ~ALATA~』は7月7日(金)からロングラン公演を予定。取材・文:中川實穗
2017年04月06日「スタジオアルタ」が4月4日(火)、東京・有楽町に開業する「オルタナティブシアター」のこけら落とし公演製作発表会を三越劇場で行い、全容が明らかになった。こけら落とし公演の演目は「アラタ~ALATA~」。サムライが主人公のタイムスリップチャンバラパフォーマンスショーで、横内謙介が脚本、岡村俊一が構成・演出、音楽をMiliと、豪華クリエイター陣が手掛けることが発表された。「オルタナティブシアター」は、グローバルな観客に向けたノンバーバルを特徴とする最先端エンターテインメント劇場で、7月7日(金)、東京・有楽町センタービル内の7階に開業する。「アラタ~ALATA~」は70分で構成し、国内でも珍しいノンバーバルパフォーミングアーツ、殺陣パフォーマンスなどを取り入れている。これまでスーパー歌舞伎をはじめ、大作舞台戯曲から小劇場までの名品を手がけてきた横内さんは、今回、台詞のない物語で壮大な歴史ロマンを描く。すでに出来上がっているという脚本について、横内さんは「7割が観光客かもしれませんが、私としては僕らの友人や日本人が観ても面白いもので、リピーターになってもらうものをしっかり作りたい。台詞はほぼないですが、ちゃんとストーリーのあるものにして、楽しく刺激的でありながら感動できるものにしたいと思います」と、内容に触れた。また、2020年の東京オリンピックへの意識も同時にあるかと聞かれた横内さんは、「オリンピックが終わったときにブームも変わると思いますが、限定した時間の中でためていたエネルギーを噴出できるチャンスだな、と」と、幸運な機会と受け止めていることを話した。演出を手掛ける岡村さんも、「外人がいっぱい来ていますが、日本は見るものがないらしいんです。2020年に向けて、いろいろな人が世界から集まってくるなら、日本の心があると伝わるような出しものを作ってみたいと思います」と、新たなエンターテインメント構築に向けての思い入れを見せていた。この日は、公演に出演する東京の第一線で活躍するストリートダンサーのElinaがキレのあるダンスパフォーマンスを、1歳半から初舞台を踏んだチャンバラスペシャリストの早乙女友貴が殺陣のパフォーマンスを行った。それぞれのパフォーマンスを初めて生で見たという両者。Elinaさんは、「本当にすごいの一言だと思います」と尊敬の眼差しで早乙女さんを見つめると、早乙女さんも、「素晴らしいの一言です。本当にキレがよくしなやかで、いろいろな感情を体で表現しているのがわかりました」とパフォーマー同士ならではの感想を言い合っていた。そのほか、オーディションのファイナリスト・吉田美佳子、田沼和俊代表取締役社長も出席した。「アラタ~ALATA~」は7月7日(金)より「オルタナティブシアター」にて、ロングラン公演予定。(cinamacafe.net)
2017年04月04日●ジャニーズという、演劇界の成功例劇作家・演出家であり、劇団青年団の主宰、こまばアゴラ劇場芸術監督、東京藝術大学などの様々大学の特任教授を務め、現代口語演劇の提唱者である平田オリザ。近年は、小説『幕が上がる』がももいろクローバーZ主演で映画化&舞台化され注目を浴びるなど、日本のアート・エンタテインメントを語るときに欠かせない人物のひとりだ。このたび、『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書/760円)を上梓し、成長社会ではなくなった日本はどうしたらいいのか、舞台人としての視線を交えて話を展開している。日本に必要な"演劇"教育とは一体どのような内容か、話を伺った。○演劇によって、問題を直視する力がつく――平田さんは、演劇により"寂しさ"に耐えられるといわれていますが、それはどういうことなんでしょうか。演劇をやると、問題を直視する力がつくんですね。問題の本質がどこにあるのかを考えることで、寂しさに耐えられるようになる。いま学校では、問題解決能力が求められていますが、本当に大事なのは問題発見能力です。――問題を直視するというと、例えばどのようになりますか。糖尿病が専門の先生たちがお芝居を作るワークショップをしたことがあります。最初は患者さんがお菓子をばくばく食べて困るといった単純な芝居を創るのですが、ワークショップを進めるうちに、「おじいちゃんが糖尿病で、その娘がシングルマザーで、孫と3人で住んでいる。ある日、孫がおじいちゃんの誕生日にケーキを焼いてくれて、さあどうするか……」という芝居ができあがったんです。どちらにも善意があるから、問題解決が難しい。すごく、リアルな設定ですよね。私たちを悩ませるのは、いつも、このような複雑な問題です。こんな風に、演劇を通すことによって、直面している問題の構造を考えることができるのではないかと思うんです。○演劇による教育がなさすぎた日本――とはいえ、様々な演劇を見ると、そういう問題設定ではないものもあるように思うのですが。もちろんいろいろな演劇があって、単に楽しいものもあれば、考えさせるものもあっていいと思います。ただ日本は、諸外国に比べると演劇による教育がなさすぎたので、今後はこういった考え方もありだと、思えるようになればいいのではないでしょうか。――確かに問題設定が一見ない、楽しいお芝居でも、役者の方は稽古の中で解釈を繰り返すので、考えることにつながっている気はします。そのことで最初に成功したのは、ジャニーズ事務所ではないでしょうか。SMAPも若い時から生の舞台を経験していますし、小劇場出身の横内謙介さんなどが演出についたりして俳優として鍛えていった。草なぎ(剛)くんも、あんなに演技に向いているなんて、やってみないとわからなかっただろうし、演劇界とジャニーズ、双方にとってもよかったですね。こういうことがもっと増えればいいなと思います。●『幕が上がる』『ちはやふる』で行ったワークショップ――演劇界と、若手スターが手を組むような試みがあると良いですよね。去年は『幕が上がる』がももいろクローバーZ主演で映画化されましたけど、そのとき、映画の撮影前にワークショップもやって、好評でした。今度は同じプロダクションが『ちはやふる』を作るというので、また若手俳優のワークショップをやったんです。そしたら、その辺の小劇場の役者よりもみんな吸収も早いし、勘もいい(笑)。そもそも、イギリスなんかでは、映画やテレビに出ているプロの俳優が通うような、演劇の学校があるんです。日本にはそういうものがありません。僕の仕事がきっかけになって、増えてくればいいなと思うんですよね。――そういうワークショップは、一般の人でも受けてみたい人はいそうです。一般の人がワークショップに行くと、演技の楽しさを知ることになるし、コアなファン、良い観客を育てることにもなりますからね。○わかりやすいものが氾濫する世の中――ワークショップにいかなくても、演劇や映画って、観れば観るほど解釈ができるようにもなりますよね。わかりやすいもの、答えが一つのものが氾濫している中で、芸術にふれるということは、自分の頭を使って想像力を養うことになりますからね。特に映画や演劇は2時間座って見るものですから、お客さんを拘束するだけの価値のあるものを、我々も全力で作らないといけない。――ただ、今でもやはり芸術に触れることに価値がある、それが何かにつながっているという実感のない人もたくさんいるかと思います。それはちょっとずつ変えていくしかないですね。わかりやすいものだけでなく、コンテンポラリーアートのような変なものも見られるような環境に。フランスのピカソ美術館にはいつも幼稚園児が来ていて、ゲラゲラ笑ってるんです。対して日本は、評価の定まったものについて「これはこういう絵ですよ」と教える教育しかまだやっていないんです。でも、わけのわからないもの、変なものに出会って、世の中にはこんなことを考える人がいるのか、世界はこういう風に見ることもできるのかと発見することが面白いので、そういう機会を子供にたくさんさせてあげることが大切だと思いますね。文化資本は、基本的に親から受け継がれるものですから。――そう考えると、若いアイドルファンが、自分が好きな人が出ているからと自発的に演劇を観に行くのは良いことですね。例えば、ジャニーズの舞台であれ、ももクロの『幕が上がる』であれ、いろんな人の目に触れて興味を持ってもらうことは大切だと思います。もちろんこちらも質の高いものを作らないと。それをきっかけに他の舞台も見たいと思えるようにしないといけないとは思います。『下り坂をそろそろと下る』(講談社現代新書/760円)人口減少、待機児童、地方創生、大学入試改革…。日本が直面する重大問題の「本質」に迫り、あらためて日本人のあり方について論考した快著。他者の権利に嫉妬するのではなく、「生活がたいへんなのに映画を観に来てくれてありがとう」と言える社会へ―。若者たちが「戻りたい」と思える「まちづくり」とは? 日本が少子化問題を解決するための方策とは? あたらしい「この国のかたち」を模索する。
2016年07月22日コミックの累計発行部数は3億2000万部を記録し、国内のみならず、海外においても人気のメガヒット漫画『ONE PIECE』が歌舞伎化!演劇界に留まらない注目を集めている、スーパー歌舞伎Ⅱ(セカンド)『ワンピース』が7日夜、東京・新橋演舞場でついに幕を開けた。前日夕方には、主役ルフィ役(ほかにハンコック、シャンクスの3役)を務める座頭で、演出(横内謙介との共同演出)も手掛ける市川猿之助の囲み取材、続けてゲネプロが行われた。スーパー歌舞伎II『ワンピース』チケット情報囲み取材で本作におけるこだわりを問われた猿之助は、「アニメや漫画をそのままやらないということ」とキッパリ。「なぜ歌舞伎でやるかということで、換骨奪胎をしてやらせていただきました。アニメ版の声優の方々にも『自分たちと同じようにはむしろやってほしくない。違うものが観たい』と言っていただき、それに勇気を得て新しいものを作りました。賛否両論あると思いますが、賛否両論あってこそ本物」と、新たな世界を切り拓く者としての覚悟のコメントを寄せた。苦労した点を問われると、「全てが苦労ですよ」と苦笑い。「スーパー歌舞伎のあらゆる手法を取り入れて、今やれるだけのことを全部やってしまった」という猿之助の言葉は、続いて行われたゲネプロで、真実であることが証明された。“スーパー歌舞伎”の代名詞・宙乗りはもちろんのこと、滝(本水)の中での大立廻り、巨大クジラ(!)の登場、フライング、プロジェクションマッピングなどの最新技術を用いた映像……。各キャラクターの必殺技も、歌舞伎的なアナログさと斬新なアイデアの融合で、様々に表現される。従来の歌舞伎の概念を覆すようなセット、衣裳、演出も多数。例えばサーフボードに乗った猿之助ルフィが3階席にも届くダイナミックな宙乗りをする二幕ラストでは、ゆずの北川悠仁が書き下ろした主題歌「TETOTE」が流れ、客席を巻き込んでの大合唱という、音楽ライブさながらの光景が繰り広げられた。そうした革新の一方、4時間50分の大作を見終えて最も感じたことは、歌舞伎ならではのカッコよさ!“麦わらの一味”が行う七五調の名乗り、アッと驚く早変わり、花道を颯爽と駆け抜ける様、ビシッとキメる見得。「これぞ歌舞伎!」な表現のワクワク感が、全編通して響き渡る柝の音とともに記憶に焼きついている。衝撃的に斬新だが、歌舞伎から逸脱していない。『ONE PIECE』という誰をも魅了する冒険心にあふれた原作が、歌舞伎に新たな可能性を示した。公演は11月25日(水)まで東京・新橋演舞場にて。取材・文/武田吏都
2015年10月09日世界で一番売れているマンガ『ONE PIECE』が歌舞伎になる。7月28日、スーパー歌舞伎II『ワンピース』の製作発表記者会見が行われ、主役ルフィを演じるとともに演出も手がける市川猿之助らが登壇した。スーパー歌舞伎II『ワンピース』チケット情報海賊になった少年モンキー・D・ルフィを主人公に、幾多の海賊たちが「ひとつなぎの大秘宝(ワンピース)」をめぐり覇権をかけて争う大冒険ロマン『ONE PIECE』。累計発行部数が世界最高となる3億2000万部を突破している、日本が誇る大ヒットマンガだ。一方、“スーパー歌舞伎”は三代目猿之助(現猿翁)がはじめたスペクタクルな演出が特徴の歌舞伎。当代猿之助はその精神を継承し、現代演劇界を代表する才能たちとのコラボで“スーパー歌舞伎II”を新たに創造している。そんな日本を代表するふたつの文化がこのたび融合する。その猿之助は「実は原作は1巻目の10ページまでしか読んでいない」と衝撃の告白。その理由は「本当に好きな者が作ると、こだわってオタク的になってしまう。素人的な疑問を大事にしようとあえて触れないようにしています」とのこと。ただ「この話をいただいた時に、色々な人が「俺、この役をやりたい」と言ってきた。それだけ愛されている作品なんだとわかりました」と、人気のほどは感じているようだ。演じるルフィに関しては、ゴム人間ということで「手は伸ばさなきゃいけないの? 困ったねぇ。ゴムの表現なんて歌舞伎にないからね(笑)。ルフィは水が苦手なんでしょ。僕も水が苦手。泳げないから、そこは非常に親近感あります(笑)」とのこと。また一人三役でほかにハンコック、シャンクスも演じるが「早替わりができて、しかも僕は女形が主ですから、そういう特性が活かせないかということでこうなりました。(人気キャラクターばかりで)知らないゆえの度胸ですよね」と話していた。脚本・演出を手がける横内謙介は「これだけ世界的に愛されている巨大な物語。たとえこの船が難破しようとも(笑)、逃げずに王道をいきたい。ストーリーはほぼ原作どおりやろうと相談しています。(歌舞伎ファンで)『ワンピース』に初めて触れる方も多いと思いますが、その方たちにも理解していただけるようにしたい」と意気込み。長大な物語の中<頂上戦争編>が上演されるが、その理由については「『麦わらの一味の勢揃い』はあった方がいいと思った。“勢揃い”という言葉自体、歌舞伎っぽい」(横内)、「歌舞伎は長い物語のなかのひと場面だけをクローズアップして上演するというのを昔からやってきている。歌舞伎というのは『ワンピース』を上演するのに一番相応しい演劇形態なんじゃないか。うまくいけば今後、『スターウォーズ』のように物語をどんどん遡っていくようなことも出きるかも」(猿之助)とそれぞれ語っていた。ほか、白ひげに市川右近、エースに福士誠治などがキャスティング。公演は10月7日(水)から11月25日(水)まで、東京・新橋演舞場にて。チケットは10月公演分が8月20日(木)に、11月公演分が9月20日(日)に一般発売を開始する。
2015年07月29日劇団扉座の横内謙介が1992年に劇団(当時は善人会議)に書き下ろした『怪談・にせ皿屋敷』。その後、藤谷美和子、香取慎吾(SMAP)らの出演でよりショーアップされたバージョンも誕生した本作が、17年ぶりに復活する。いまや大衆演劇界に留まらないスター・早乙女太一を主演に、これが初舞台となる山本美月、ドラマ『ルーズヴェルト・ゲーム』でも注目された馬場徹ら実力派キャストが揃う。6月19日(木)の東京・青山劇場での初日に向け、最終仕上げの段階に入った稽古場を見学した。舞台『怪談・にせ皿屋敷』チケット情報御用金横領の悪事に手を染める“イカれた殿様”青山播磨(早乙女太一)に、大目付・岩田鉄太郎(陳内将)の捜査の手が及び、青山家家老・山岸次郎佐衛門(山崎銀之丞)や謎の協力者・園部上総之介(馬場徹)は策を練る。同じ頃、青山家の屋敷では、家宝の皿を割った女中が、同じ女中仲間のお菊(山本美月)に罪を着せていた。園部たちの策とは、御用金を隠した枯井戸で女が死に、その呪いを封じた“封印”を破れば災いが起こるという物語を仕立てること。そのウソの物語に信憑性を持たせるべく選ばれたターゲットはお菊だった……。怪談「皿屋敷」をベースにしているものの、「合コン」「ファンレター」といった台詞が混じるなど、実はコメディ色、現代色の強い作品だ。若いキャストが多く、稽古場の空気も非常に明るい。衣装合わせ中の馬場の格好を見てキャストのひとりが「カオナシだ!」と言うと、一斉に笑いが起こる。その和らいだ空気が、稽古に入ると当然ながらキュッと引き締まるのだが、特にその飛躍が激しいのが早乙女太一。山本らと直前まで雑談を交わし、22歳の普通の若者らしい姿を見せていたのが嘘のように、存在感と凄みが加わる。その早乙女との共演も多い馬場は、今回受けの役回りで抑えた演技が多いが、アスリートのごときストイックな雰囲気が役にぴったり。彼らと対峙する岩田を内面から湧き上がる熱さで演じる陳内将は、どこか狂気を宿したような目が印象的だった。ヒロインの山本美月も、お菊のピュアさと健気さを魅力的に表現して、パワフルな男性陣に立ち向かう。笑い満載のこの作品が、播磨とお菊との切ないラストシーンで見事、美しいラブストーリーに結実する。見学中、一瞬ピリッとする場面が。播磨に刀を向ける手下役に早乙女が、「そこいつもタイミングが合ってない。それじゃ台詞と効果音がかぶっちゃうでしょ?」と、口調は穏やかながら厳しいダメ出し。若き座長の確固たる美意識と芸への厳しさが垣間見られ、場の空気が一気に引き締まる。作品全体もオンオフを巧みに切り替え、金に囚われた人間たちのドラマをしっかりと観せてくれるはずだ。公演は6月19日(木)から23日(月)まで東京・青山劇場にて。チケット発売中。取材・文武田吏都
2014年06月13日